賃金に関する法律問題!給料の天引きやノーワークノーペイ原則の根拠、賞与や退職金を解説

ここでは労働法関連、特に「賃金に関する問題」を扱う。

  • 会社での親睦会にかかった費用が勝手に給料から天引きされている
  • 賃金はそもそもどのように支払われるべきなのか
  • 賞与や退職金は必ず支払われるものなのか

これらに関して言及する。

賃金の支払いに関する基本原則

賃金の支払いは「全額払い」「通貨払い」であることなどが原則である。
しかし①労使協定を締結したときや、②労働者の同意があるときには例外措置も取り得る。

全額払い・通貨払い等

賃金支払いの諸原則は労働基準法第24条にその定めがある。

第24条
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」
2「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、この限りでない。」

つまり賃金の支払いにおいては以下に従うことが原則とされる。

  • 全額で支払う
  • 通貨で支払う
  • 直接支払う
  • 毎月1回以上支払う
  • 一定期日に支払う

そのため、何の取り決めや同意もなく以下のように支払うことは認められない。

  • 給料の天引き
  • 外国通貨での支払い
  • 労働者本人以外への支払い
  • 隔月での支払い
  • 不定期の支払い

例外1 – 労使協定の締結

原則は上の通りだが、例外として、労使協定を締結して天引き等を定めることも可能。

労働者の過半数を代表する者あるいは過半数を組織する労働組合と使用者との協定

労働基準法第24条1項ただし書き
「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」

労使協定就業規則の違い
就業規則 = 法律の範囲内であるが、会社が一方的に作成できる
労使協定 = 労働者と会社の合意により締結され、法律の内容に対する例外規定を設けられる
労使協定は公開されているため、就業規則と併せて確認をすると良い。

例外2 – 労働者による同意

労働者による同意があればどのような例外規定も認められるというわけではない。
単に契約書へ押印しただけでは不十分。

このことに関して判例がある。
→ 労働者の同意による「賃金債権の放棄」や、会社に対して有する債務との「相殺」等につき、
自由意志の同意があれば問題ないと判示した。

同意に至った背景、同意の態様、労働者の利益になるかどうか、
など総合考慮して決せられる。

給料の天引きは違法か

問題となりやすい点を例に2つ挙げる。

労働者による損害の天引き

労働者が勤務中にした行為によって、会社に損害を与えることも起こり得る。

しかしその場合も、損害分を給料から天引きするということは会社の勝手でできない
(全額払いの原則に反する)

 

結局、労働基準法24条1項の例外に当たらない限り、この天引きは違法となる。
上述の通り、総合的に見て「自由意思による同意」があると評価されなければ単なる同意があったとしても天引きはできない。

飲み会による天引き

会社主催で開かれる飲み会など、親睦会名目で給料の天引きをするケースでもこれまでの例と同様に考えられる。
(勝手に天引きはできない)

  • 自由意思による本人の同意
  • 労使協定の締結

によらなければ違法。

ノーワークノーペイの原則

ノーワークノーペイ(No work, No pay)の原則は、
・No work:働かなければ
・No pay:給料の支払いはない
という原則。

賃金請求は労働後

ノーワークノーペイの原則の下では、賃金請求は労働をしてから可能となる。

 

契約によって賃金請求権自体発生はするが、実際に具体的金額を請求するには、就労をすることが求められる。
ノーワークノーペイの原則は、民法624条1項にその規定がある。

(報酬の支払時期)
第624条「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」

特別な合意がない限り、給料の前払いは認められない

例外1 – 使用者側の問題

ノーワークノーペイの原則にも例外がある。

 

例えば労働者が働こうとしているにもかかわらず使用者が拒絶するケース。

この場合、就労に関して債務を負っている労働者が、その債務を履行できなくなってしまう。
ただしこの場合には債権者である使用者側に問題があるため、民法第536条により、労働者は賃金の請求ができる。

(債務者の危険負担等)
第536条「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」
2「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」

536条にあてはめると、正当な理由なく拒絶していることが「債権者の責めに帰すべき事由」に該当する。そのため就労の反対給付である賃金の支払いを使用者は拒むことができなくなる

他にも例えば

  • 正当な理由のない解雇
  • 正当な理由のない自宅待機

などがある。

例外2 – 労働者側の問題

労働者側に問題があって就労の義務を果たせないこともある。
(労働者の責めに帰すべき事由)

この場合は当然賃金請求権は認められない。

例えば、プライベートでの旅行で怪我をしてしまい、仕事を休む場合など。

例外3 – 休業手当

使用者の責めに帰すべき事由、またはそれ以外の場合においても「休業手当」の制度が適用され、ノーワークノーペイの原則から言えば半例外的な措置が取られることもある。

使用者の責めに帰すべき事由により休業する場合、平均賃金の60%以上を支払わなければならないとする制度(労働基準法第26条)。

(休業手当)
労働基準法第26条「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない。」

休業手当の支払いを義務付けられる範囲は広く、
民法536条にいう「債権者の責めに帰すべき事由」に該当しなくても、
不可抗力を主張できない場合には平均賃金の60%以上の支払い義務が使用者に生じることがある。

ほとんどの場合の休業は、自然災害などの不可抗力である場合を除いて「使用者の責めに帰すべき事由」に該当することになり、使用者は、最善の努力を尽くしていないと評価されると休業手当の支払いが必要になる。
例)電車遅延による休業手当は?

電車遅延など、交通機関が通常通り機能せずに就労に送れる、もしくは就労できないという事態が発生することも珍しくない。この場合、使用者も労働者も悪くないように思える。
しかし休業手当可否の観点から言うと、大原則であるノーワークノーペイの原則がそのまま適用され、手当を支給する必要はないと考えられる。
※実際には個別によく検討する必要はある

 

例)新型コロナウイルスによる休業手当は?

新型コロナウイルスに感染したことで就業制限がかかり休業することになった場合、その感染が会社の責任でない場合には「使用者の責めに帰すべき事由」には該当せず、ノーワークノーペイの原則により労働基準法上は賃金を支払う必要がない。

賃金請求権の時効

諸原則に反することなく、労働者が就労をした場合には賃金請求権が生じる。
通常は請求をするまでもなく使用者が支払いに応じるが、未払いが続き、いつまでもその請求をしない場合、消滅時効を迎えることでその権利を失ってしまうことがある。

 

各種債権には消滅時効の定めが置かれており、
一般的な債権の場合は5年で時効消滅する

消滅時効の期間一覧(主観・客観的起算点などまとめ)
消滅時効は債権の場合基本的に、権利が行使できる時から5年間、行使できる時から20年とされる。しかし不法行為による損害賠償請求権や、人の生命・身体への侵害があった場合には別の定めに従うことになる。このページではその他短期消滅時効の定め等にも言及する。

 

賃金に関しては従来2年の時効期間とされてきたが、近年の法改正によって、一般債権の原則通り5年と改められた。
しかしながら当面の間は3年の時効期間で運用することとされている。

 

なお、消滅時効の起算日(どの日から3年間を計算するのか、その始まりの日)も非常に重要。
債権の消滅時効に関して、起算日の考え方について以下のページで解説している。

【債権の種類別】消滅時効の起算点と履行遅滞の時期まとめ
「確定期限の定めのある債権」「不確定期限の定めのある債権」「期限の定めのない債権」など、各種債権について消滅時効の起算点や履行遅滞に陥る時期を解説していく。また「債務不履行による損害賠償請求権」や「不法行為による損害賠償請求権」などの具体的な権利に関しても併せて紹介する。

賞与について

賞与(ボーナス)や後述する退職金は、毎月決まった金額を支払われるものではない。
そこで、就労に伴い必ずもらえるものなのか、という問題がある。

 

賞与や退職金に関しても労働条件の一つであるため、就業規則で確認が可能。
就業規則の定めにより決められるということは、賞与等の制度設計は使用者の自由となる。

一般的には就業規則で賞与の支給時期の定めが置かれる。そのため支払われるとすれば、その時期は簡単に知ることができる。
一方で支給額は、支給対象期間の業績や人事考課による査定などによるため、支給の有無およびその額は確実なものとならない。

 

また賞与は、労働基準法24条2項のただし書きにある「臨時に支払う賃金」であるため、上述の原則の例外として扱うことができる。

(賃金の支払)
第24条2項「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、この限りでない。」

 

つまり法的には、賞与が確実に支払われるものかどうかは判断できない。
支払われないからといってそれだけでただちに違法にはならない。

退職者への賞与
退職者がいる場合、前回の賃金支払いから退職日までに働いた分は、当然支払いが必要。
一方で賞与に関しては「支給日の在籍者のみに支給」という取扱いが適法とされた判例がある。
→ 支給対象期間に働いていても、退職すれば賞与は支給されない

退職金について

退職金についても賞与と同様に考えられる。

勤続年数に応じて支給額が上がるのが通常だが、制度設計は使用者の自由。

しかし、退職金は賃金の後払い的性格を持つものとし、これまでの勤続の功を抹消・減殺するほどの著しい背信行為があったときに限って、退職金の不支給・減額処分が認められるという判例がある。

 

そのため、賞与に比べて退職金の支払いは、やや確実性が高いと評価できる。