民法改正以前、保証契約に関し、保証人への情報提供義務を規定していなかったが、
このページで解説する3つの情報提供義務の規定が新設された。
ごく簡単にまとめると以下のようになる。
- 主債務者が、自身の財産状況等を伝える義務(465条の10)
- 債権者が、履行状況に関する情報を提供する義務(458条の2)
- 債権者が、主債務者の期限の利益が喪失したことを通知する義務(458条の3)
保証人への情報提供という意味ではいずれも共通するが、下のポイントを整理して理解することが重要。
- 提供しないといけない情報は何か
- 誰が義務を負うのか
- 義務が生じる条件は何か
- いつ提供が必要か
- 義務違反をするとどうなるか
これらに関し、各規定を解説していく。
契約締結時の情報の提供義務
民法465条の10に新設された「契約締結時の情報の提供義務」の規定は下表の内容。
提供する情報 | 主債務者の財産状況等 |
主債務以外に負担している債務の情報 | |
担保を供するのであればその情報 | |
義務を負うもの | 主債務者 |
義務が生じる条件 | 1:主債務が「事業のため」であること |
2:個人の保証人であること | |
3:委託された保証人であること | |
いつ情報を提供するか | 保証契約締結時 |
義務違反の効果 | 情報の不提供・誤情報の提供等によって誤認したまま保証契約をし、このことにつき、債権者が、悪意又は有過失。 → 保証人は、保証契約を取り消すことができる |
提供する情報
改正以前、債務者から保証人に対し情報を提供しなければいけないとの規定はなかった(信義則上一定の義務はあるとも考えられるが)。
しかし、主債務者の財産状況や、他の担保の存在などは、保証契約を締結するうえで非常に重要な判断材料となる。
例えば、主債務者から頼まれ、よく考えずに保証を引き受けてしまうこともある。
その結果大きなリスクを負うことになってしまう。
主債務者が弁済できず、債権者から保証責任を追及されることで保証人の生活も破綻してしまうかもしれない。
そこで民法の改正により、主債務者が、事前に財産状況等の情報を保証人に提供することを定めた。
これによって保証人はリスクの存在を認識したうえで保証契約締結の判断を下せるようになる。
あらゆる保証契約に適用されるわけではない。
義務違反
当該規定に違反し、情報提供をしなければ、
- 保証契約の取り消し
- 不法行為に基づく損害賠償請求
などが起こり得る。
主債務者が必要な情報を提供しない、もしくは間違った情報を伝えることにより、
保証人になろうとする者が誤認をし、
それによって保証契約の意思表示をした場合、
債権者がその事実を知り(悪意)、または知ることができた(有過失)ときは、
個人保証人は、保証契約を取り消すことができる。
履行状況に関する情報の提供義務
民法458条の2に新設された「履行状況に関する情報の提供義務」の規定は下表の内容。
提供する情報 | 主債務者の不履行の有無 |
主債務の残額 | |
義務を負うもの | 債権者 |
義務が生じる条件 | 1:委託された保証人であること |
2:保証人が請求すること | |
いつ情報を提供するか | 保証人による請求時 |
義務違反の効果 | 債務不履行の一般法理に従い損害賠償請求 |
提供する情報
しかしその場合、保証人が主債務につき長期間債務不履行が続いていることに気が付かず、その後多額の遅延損害金も加算した弁済を求められてしまう事態も生じうる。
そこで、主債務者から委託を受けた保証人に限り、
債権者に主債務の履行状況に関する情報を提供するよう請求できる規定を設けた。
義務違反
同規定の義務違反があった場合、債務不履行の一般法理に従い、損害が生じたときには、保証人は損害賠償を請求できる。
(このときの損害としては、例えば、請求後債権者が遅滞なく情報を提供していれば防げたであろう遅延損害金などが挙げられる)
情報提供がなされないことを理由に催告解除をしても、保証契約の付随的義務であることなどから、基本的にはできないと考えられる。
期限の利益の喪失に関する情報の提供義務
民法458条の3に新設された「期限の利益の喪失に関する情報の提供義務」の規定は下表の内容。
提供する情報 | 主債務者の期限の利益の喪失 |
義務を負うもの | 債権者 |
義務の生じる条件 | 1:保証人が個人であること |
2:主債務者の期限の利益が喪失 | |
3:債権者がその事実を知る | |
いつ情報を提供するか | 債権者が事実を知ってから2ヶ月以内 |
義務違反の効果 | 通知をするまでの間の遅延損害金を請求できない |
提供する情報
保証人にとって予想外に多額の弁済を求められるような事態を防ぐために設けられた。
なお、通知内容である「期限の利益の喪失」に関しては137条の法定喪失事由に加え、合意による期限の利益の放棄も含まれる。
< 法定喪失事由 >
- 破産
- 担保を滅失するなどの行為(抵当権付きの物件を放火するなど)
- 担保を供する義務を果たさない
< 合意による喪失 >
例えば期限の前に弁済をするなどの行為が挙げられる。ただしこの場合、債権者側の利益も失うことになるため、合意がなければできない。
義務違反
この通知をしない場合、主債務者の期限の利益喪失の時から通知を現に行う時までに生じた遅延損害金を保証人に請求できなくなる。
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