プライバシー権には消極的側面と積極的側面がある。
「暴露をされない権利」としての側面が前者、
「自己の情報をコントロールする権利」としての側面が後者。
この権利は憲法13条の「幸福追求権」の一部とされ、
判例により認められた新しい人権の一つである。
以下で詳しく説明し、知る権利や表現の自由と衝突した判例に関しても解説していく。
プライバシー権とは
まずは簡単にプライバシー権がどのような権利なのか、どのような枠組みに入るのか説明していく。
暴露されない権利
従来プライバシー権について言われてきたのは、以下のようなもの。
- 「放っておいてもらう権利」
- 「1人でいる権利」
- 「自分のことをみだりに公開されない権利」
要は個人的なことを勝手に暴露しないでほしいということを叶える権利である。
この権利が守られなければ、マスコミ等によって私生活を暴露されてしまいやすくなる。
自分の情報をコントロールする権利
近年では情報技術が発展したことで企業や行政機関に膨大な量の個人情報が集まっている。そのため前項のように、プライバシー権を、他人に放っておいてもらうためだけの権利というだけでは不十分になりつつある。
そこで、自分の情報をコントロールする権利でもある、ということを認めるべきとする見解も有力。
最近では注目されることの増えた「個人情報保護法」も、この観点から制定に至っている。
・暴露されない権利(プライバシー権の消極的側面)
・自分の情報をコントロールする権利(プライバシー権の積極的側面)
プライバシー権はこの2つの性質を兼ねるとする。
「新しい人権」の一つ
プライバシー権は、憲法13条がその根拠となる。
第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
しかし条文では「プライバシー権」と明記はされていない。
ただ、憲法13条は包括的な基本権であり、
これまで憲法に載っていなかった権利、新しい人権をまとめて保障する役割も担う。
そこで13条後段にある「幸福追求権」の中に様々な権利を含めることとする。
プライバシー権は判例上認められた新しい人権であり、
他に判例上認められた新しい人権には「肖像権」もある。
他にも環境権やアクセス権、自己決定権、平和的生存権なども新しい人権とする考え方もあるが、いずれも条文上は明記されておらず、判例で認められているのはプライバシー権および肖像権に限られる。
憲法13条、新しい人権・幸福追求権に関する詳細はこちら

他の権利との対立
人権は衝突することがある。
例えば自己の情報等を公開されない権利を意味するプライバシー権と、「知る権利」「表現の自由」はその性質上対立しやすいと言える。
なぜなら、ある特定の情報を知るためには範囲の大小はあれどその情報が公開されなければならないし、表現をするうえで公開されてしまう情報もあるからである。
プライバシー権VS知る権利
(最判昭56.4.14)
プライバシー権と知る権利で争われた判例がある。
弁護士会が京都市に対し情報開示を要求し、その結果個人の前科等をすべて報告してしまったという事件。中央労働委員会および京都地裁に提出するということを理由に開示請求をしたが、そのせいで、相手方は不利な立場に立たされてしまった。そこで京都市に損害賠償請求をしたというもの。
結果的には、プライバシー権が侵害されたとして、知る権利がプライバシー権に負けた。
市長が弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類や軽重を問わず、前科などのすべてを報告することは「公権力の違法な行使」にあたるとされた。
そもそも、前科をみだりに公開することは許されない。
絶対的に非公開が厳守されるわけではなく、公開の必要性等も考慮することになるが、この事件のように漠然と応じて、すべてを報告するということは公権力の違法な行使と解するのが相当。
当然、常にプライバシー権が勝つわけではなく具体的状況等を勘案して評価しなければならない。
しかし知る権利は社会権的側面を持つ権利であり、個人の尊厳を守るプライバシー権と比べると、やや優先度が落ちる。
そのため知る権利が勝つためにはそれなりの理由が必要とされる。
知る権利など、社会権は一般的に抽象的権利と言われている。そのため憲法の規定のみを根拠に具体的要求はできない。例えば情報公開条例や生活保護法など、立法がなされてはじめて権利が具体化、そうしてようやく何かしらの行為の請求が実際にできるようになる。
プライバシー権VS表現の自由
次に、プライバシー権と表現の自由で争われた判例を挙げる。
傷害致死罪の前科を持つ者について、この事実を公開したためプライバシー権の侵害ではないかと争われた事例。前科を公表することにも社会的意義が認められることもある。しかしこれは公的立場にある場合とされている。
そしてこの事件において公開した者は公的立場にない。
そのため、実名使用を正当化する理由はないとして「表現の自由」は認められなかった。
表現の自由は「外面的な精神活動」であり、その自由を保障する権利として重要なものと捉えられている。そのため上の判例で紹介した知る権利よりも優先度は高いと言える。
ただ、表現の自由に対して特別な配慮は求められるものの、対立する権利(ここではプライバシー権)や表現内容などを程度問題として考えることも大切。
表現の自由(知る権利等)に関する詳細はこちら

指紋の押捺を強制されない権利
もう一つ判例を紹介する。
指紋押捺事件(最判平7.12.15)
指紋の押捺を強制されたことが、プライバシー権を侵害したことになるか、という事例。
憲法13条で保障される自由の一つとして、みだりに指紋の押捺を強制されない自由も含まれると言うべきであり、国家機関が正当な理由なく指紋の押捺を強制することは、同条の趣旨に反すると評価された。
そのため指紋の押捺を強制されない権利はプライバシー権に含まれるとし、当該事例ではプライバシー権の侵害があったと言える。
練習問題
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