相殺禁止特約とは
当事者がそれぞれ同種の目的を有する債務を負担しており、双方の債務が弁済期にある場合、各債務者は対等額を相殺することで債務を免れることができます。
これは民法505条1項にある「相殺」の規定で、改正前後で変化はありません。
問題となるのは、原則、このように相殺ができるとされているものを禁止する特約を交わした場合です。
当事者間で合意をすれば相殺を禁止・制限することができますが、この特約を「相殺禁止特約」と言います。
重過失ある第三者にも相殺禁止特約を対抗できるように
相殺禁止特約を設けることで当事者間では当然、その後相殺をすることはできなくなります。
しかし相殺禁止特約の付いた債権を譲渡された者は、この特約のことを知らない可能性もあるでしょう。
例えばAとBが互いに債務を負担、それとは別にBがCに対し債権を有している場合を考えてみましょう。
CがAから債権(Bに対する債権)を譲り受けると、CはBと間で相殺ができると期待するかもしれません。
A ⇔ B … C
A … B ⇔ C
ただ、AB間で相殺禁止特約をしていた場合、Cが譲り受けたのは相殺禁止特約付きの債権ということになりますが、Cがこの特約のことを知らないのに相殺が禁止されるとなるのは酷です。
そもそも債権は相殺ができるものだからCが相殺を期待するのは当然なのです。
そこで505条2項。
「前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。」
つまり、Cが特約のことを知っていた時と、重過失により知らなかった場合にだけBは相殺禁止特約のことを対抗できるということです。
従来は善意の第三者に対して対抗ができないとだけ規定されていたところを、「善意かつ無重過失」の第三者には対抗できないとルールを変更したのです。
これは債権譲渡制限特約とのすり合わせをした結果のルール変更です。
しかしこの場合でも「善意かつ無重過失」の第三者には特約のことを主張できない(466条3項)。
性質の近い相殺禁止特約と譲渡制限特約では同じ要件で規律するのが妥当ということで、このようにルールが変更されるに至っています。
まとめ
- 債務の性質上問題がなければ原則として相殺は可能
→ 相殺禁止特約をすることも可能 - 当事者視点:相殺禁止特約を当事者以外に対抗するには、第三者が悪意または重過失でなければならない
- 第三者視点:相殺禁止特約により相殺を拒まれないためには、第三者は善意かつ無重過失でなければならない