連帯債務者の1人に生じた事由が、その他の連帯債務者に影響するのか。
他の者に影響しない「相対効」が原則とされるが、
例外的に「絶対効」が認められる行為もある。
以下が連帯債務の相対効と絶対効をまとめた表になるが、民法改正により影響を受けており、例外ケースは少なくなっている。
なお、一人の連帯債務者がした弁済(債権を満足させるもの)は、当然、絶対効として全員に影響し、その他の連帯債務者は債務を免れる。
改正前 | 改正後 | ||
弁済 | 絶対効 | 絶対効 | (全額の弁済であること) |
履行の請求 | 絶対効 | 相対効 | 変更! |
免除 | 絶対効 | 相対効 | 変更! |
時効の完成 | 絶対効 | 相対効 | 変更! |
相殺 | 絶対効 | 絶対効 | 援用ではなく履行の拒絶 |
混同 | 絶対効 | 絶対効 | |
更改 | 絶対効 | 絶対効 |
連帯債務の原則
連帯債務とは「債務の目的が性質上可分であるときに、法令の規定や当事者の意思表示によって数人が連帯して負担する債務」のことである。
そして連帯債務においては、連帯債務者の1人に生じた事由は他の連帯債務者に影響せず独立関係を持つ。つまり「相対効」が原則とされる(436条)。
(相対的効力の原則)
第441条「連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。」
しかし一部の事由に関しては、他の連帯債務者にも影響が及ぶ「絶対効」がある。
民法改正前は以下の6つがその絶対効を有する事由とされていたが、
「履行の請求」「免除」「時効の完成」に関しては、近年、民法改正によって原則通り相対効しか持たないことになった。
- 履行の請求
- 相殺
- 免除
- 時効の完成
- 更改
- 混同
※相対効とされている事由でも、特約によって絶対効を付与することは可能(441条ただし書)
履行の請求(相対効)
連帯債務者全員には及ばない = 相対効
請求に関しては、従前、絶対効を認める規定が設けられていたが、民法改正によってその規定は削除された。
このことにより、原則である相対効、つまり請求をした相手のみにだけその効果が生じることとなっている。
例
債権者が、連帯債務者の一人に裁判上の請求をして時効の完成を猶予させても、他の連帯債務者の時効は進行する。また、履行遅滞に関しても、請求した相手にしか効果が生じない。
債権者がそれぞれの連帯債務者に対して時効を止める・履行遅滞に陥らせるには、各連帯債務者に対し請求をしなければならない。
なお、時効に関する改正はこちらで詳しく解説

相対効になった理由
何も知らない連帯債務者にも不利益が生じるという問題があったため。
免除(相対効)
連帯債務者全員には及ばない = 相対効
※債務者間での求償関係は残る
免除に関しても「請求」同様、絶対効を認める規定が設けられていたが、民法改正によってその規定は削除された。
このことにより、原則である相対効、つまり免除をした相手だけが債務を免れる。
ただし他の者に不利益の生じないよう、債務者間においては求償関係が残る。
例
AとBとCが、債権者Xに対して金300万円の債務を負担していたが、XがAの債務を免除したとする(負担割合はそれぞれ100万円とする)。このとき、BとCは何ら影響を受けず、Xに対し300万円を負担したままとなる。
ただし連帯債務者間(ABC)においては求償関係が残るため、Bが全額弁済した場合、BはCだけでなくAに対しても100万円を求償できる。
相対効になった理由
債権者が免除をする意思としては、その者に対して今後請求しないというものに過ぎず、他の者にまで免除しようとする意志はないのが通常であり、絶対効を認めることによる債権者の不利益は大きいため。
上の例を改正前民法で考えると、Aに対する免除がBとCにも及び、結果としてBCは200万円の連帯債務となる。債権者は、請求できる金額が減ってしまう。
時効の完成(相対効)
連帯債務者全員には及ばない = 相対効
※債務者間での求償関係は残る
連帯債務者の一人について時効が完成した場合もこれまで同様、絶対効を認める規定が削除され、原則通り相対効となった。
連帯債務者間においては求償関係が残るなど、免除のケースとほぼ同じである。
例
債権者Xに対し金300万円を連帯債務者(ABC)が負担する例を想定する。このときAに時効完成が生じてもBとCには影響がなく、BとCは債権者Xに対して金300万円の債務を負担する。
ただしその後Bが全額弁済すると、Bは、CとAに対して100万円を求償できる。
相対効になった理由
資力ある連帯債務者から弁済を受ける予定で、債権者が特定の連帯債務者に対して消滅時効の完成を防ぐことが考えられる。それにもかかわらず、その他の連帯債務者につき時効が完成することで請求できる額が減ってしまう。もともと債権を強化する趣旨で連帯債務にしていることを鑑みればこのような状況になるのは妥当ではないと評価され、絶対効の規定は削除された。
時効が完成することで、BとCは債権者Xに対し200万円を負担するのでよくなる。
相殺(絶対効)
連帯債務者全員に影響する = 絶対効
※他の連帯債務者は、援用ではなく、履行の拒絶ができる
相殺に関しては、民法改正前においても絶対効が認められており、改正後においてもそれは変わらない(439条)。
つまり、反対債権を有する連帯債務者の一人が相殺をした場合には、他の連帯債務者は債務を免れる。これはその者が債務を支払ったのと同義であるため当然とも言える。
ただし反対債権を有する者が相殺をしない場合、他の者はそれを援用するのではなく、負担部分の限度で「債務の履行を拒む」ことができる。
(連帯債務者の一人による相殺等)
第439条「連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。」
2「前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」
例
債権者Xに対し連帯債務者A・B・Cが金300万円を負担しているとする(負担割合は100万円ずつ)。AがXへの反対債権300万円を有するとき、BとCは、100万円の限度でXからの請求を拒むことができる。
Aの相殺によって債務が消滅した場合には、Aは、BとCに求償できる。
改正の理由
反対債権につき無関係の者が「相殺の援用」という形で他人の債権を処分できるのは妥当ではないと評価されたため。そのため、援用ではなく、その分の「履行を拒める」形に変更した。
また、そもそも相対効のままにしていないのは、相殺の場合、相対効としてしまうと清算が複雑になってしまうという理由がある。
混同(絶対効)
連帯債務者全員に影響する = 絶対効
混同にも絶対効が認められる(440条)。
(連帯債務者の一人との間の混同)
第440条「連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。」
例
連帯債務者の一人Aが債権者Xを単独相続すると、他の連帯債務者BCは債務を免れる。なぜなら、Aは弁済をしたものとみなされるから。そしてAは、BとCに求償ができる。
連帯債務者の一人と債権者との間に混同が生じた時、その債務者は、他の連帯債務者に求償ができる範囲内で債権者に代位する。
更改(絶対効)
連帯債務者全員に影響する = 絶対効
更改にも絶対効が認められる(438条)。
(連帯債務者の一人との間の更改)
第438条「連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。」
例
債権者Xが連帯債務者の一人であるAと更改した。他の連帯債務者であるBとCは、Xに対する債務を免れる。Aは、BとCに求償できる。
更改が絶対効の理由
更改の契約は、債務消滅の合意を含むものと考えられている。そのため債権者ら当事者の、連帯債務消滅の意思を重視し、このように扱う。
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比較
よく比較対象になる「連帯債権」および「連帯保証」について、その違いを簡単に説明する。
連帯債権と連帯債務
連帯債権は、連帯債務と違って「履行の請求」および「免除」に絶対効が認められる。また「免除」と「更改」の絶対効が部分的であることも特徴的。
連帯債務 | 連帯債権 | |
履行の請求 | 相対効 | 絶対効 |
免除 | 相対効 | 絶対効(債権額の分与割合のみ) |
時効の完成 | 相対効 | 相対効 |
相殺 | 絶対効 | 絶対効 |
混同 | 絶対効 | 絶対効 |
更改 | 絶対効 | 絶対効(債権額の分与割合のみ) |
「連帯債権の相対効・絶対効」に関する詳しい解説はこちらのページ

連帯保証と連帯債務
連帯保証:主債務者が一人いて、連帯保証人はそれを保証する
連帯債務:連帯債務者が主債務者と連帯して同一の債務を負う
つまり、連帯債務者は主債務者と同一の立場になるという特徴があり、この点連帯保証人とは異なる。
債権者側から見ると、
・連帯保証:主債務者が支払えないときにはじめて連帯保証人に返済を求められる
・連帯債務:各債務者には連帯して返済する義務があるため、いつでも返済を求めることが出来る
という違いがある。
「連帯保証の相対効・絶対効」に関してはこちらのページ
