行政事件訴訟法上の仮の救済には3種ある。
1:執行停止
2:仮の義務付け
3:仮の差止め
以下ではこれ仮の救済の、要件や具体例などを挙げて解説していく。
仮の救済とは
「処分を取り消したい」「特定の処分をして欲しい」「処分をしないようにしてほしい」などといった場合、取消訴訟や義務付け訴訟、差止訴訟等を提起することになる。
しかし訴訟の提起をしてから判決までには時間がかかり、その間に不利益を被る可能性がある。
そこで設けられたのが仮の救済制度である。
仮の救済制度は、判決確定までの間、原告の権利利益をいったん(仮に)保護する制度。
民事訴訟においては仮の救済として民事保全法による仮処分があるが、
行政事件訴訟法では「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に関して民事保全法による仮処分を排除する規定が設けられている。
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代わりに執行停止・仮の義務付け・仮の差止めといった仮の救済措置ができるようになっている。
- 民事保全法上の仮処分:公法上の当事者訴訟
↓(行訴法では) - 執行停止:取消訴訟、無効等確認訴訟における仮の救済
- 仮の義務付け:義務付け訴訟における仮の救済
- 仮の差止め:差止訴訟における仮の救済
それぞれ詳しく見ていく。
執行停止について
執行停止とは、取消訴訟や無効等確認訴訟が提起された場合、処分の執行を停止する制度のこと。
行政事件においては取消訴訟等が提起されても、当該訴訟で争われている処分につき執行は自動で停止しない「執行不停止の原則」が採られている。
→ そのため執行停止を求める場合には裁判所へ申立てをしなければならず、申立てを受けた裁判所がその内容を判断して処分の執行停止を命じる制度となっている。
執行停止の決定には第三者効および拘束力が認められる。
マンションの建築に対する建築確認が行われ、その周辺の住民がこれに反対し、建築確認に対する取消訴訟が提起されたとする。
しかし取消訴訟を進めている最中に工事が完了してしまうと訴えの利益は失われてしまうため、仮の救済制度を利用することになる。そこで建築確認の効力を止めるため(建設工事を早く止めるため)、執行停止を申立てる。
その結果、申立てが認められると工事を阻止することができるが、次項で説明する要件を満たさなければならない。
要件
執行停止は、
積極的要件(執行停止のために○○が必要という要件)と
消極的要件(××がある場合には不可という要件)に分けて考えられる。
- 取消訴訟などの「本案訴訟」が適法に係属している
- 重大な損害を避けるために緊急の必要がある
- 公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがない
- 本案に理由がないとみえない(敗訴見込みがない)
※1,2は積極的要件、3,4は消極的要件
なお、要件が満たされているかどうかは、疎明に基づいて審理されるため、「一応確からしいという心証を与えられれば良い」。口頭弁論を開く必要はないが、当事者の意見はあらかじめ聴く必要がある。
執行停止の要件を満たす場合でも、内閣総理大臣はこれに異議を申し立てることができ、その異議があったとき、裁判所は執行停止をすることができない。
すでに執行停止の決定をしている場合には、これを取り消さなければならない。
重大な損害とは
「重大な損害」に関しては、必ずしも回復が困難な程度である必要はない。
なぜなら法改正前は「回復が困難な損害」と明記されていたところ、要件緩和の目的で文言を変更したという背景がある。
また回復が困難かどうかで評価しようとすると、財産上の損害は後の損害賠償による回復ができるとして認められにくくなっていた。しかし重大な損害であれば良いため、財産上の損害に関しても執行停止は認められる可能性があると言える。
執行停止に対する即時抗告
執行停止に対する即時抗告の規定は、行訴法25条7項と8項に置かれている。
第25条
7「執行停止の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。」
8「執行停止の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。」
第7項では、執行停止の申立てをした結果に対し即時抗告できる旨定められている。
一方第8項は少し複雑に見えるが、即時抗告における「執行停止の原則」が前提にあることを理解しておくとイメージできる。
原則、即時抗告は通常抗告に比べて迅速性が求められるため執行を停止する効力が認められるが、ある処分に対する執行停止が問題になっているこの場面においては、例外措置として、執行を停止する効力を有しないものとしている。
判例:弁護士懲戒執行停止事件(最決平19.12.18)
事例
弁護士(原告)が弁護士会から業務停止3月の懲戒処分を受けたため、審査請求をしたが、棄却裁決となった。そこでこの裁決に対し取消訴訟を提起し、懲戒処分の執行停止の申立ても行ったという事例
結論
執行停止は認められた
理由
原告はすでに多くの案件を受任しており、懲戒処分による業務停止期間中においても期日が指定されている訴訟案件があった。
そこで業務ができないとなれば、原告には社会的信用の低下や、業務上の信頼関係に毀損が生じる。
これを最高裁は「重大な損害」に該当するとした。
「仮の義務付け」と「仮の差止め」
仮の差止め:差止訴訟の提起時、仮に処分等をしてはいけない旨命じる制度
「仮の義務付け」および「仮の差止め」は、行訴法上の同じ条文上の規定に従うものが多い。
仮の義務付けは行訴法37条の5第1項、仮の差止めは行訴法37条の5第2項にそれぞれ規定が置かれているが、第3項および第4項は両方に共通するルールとなっている。
要件
仮の義務付けの要件、仮の差止めの要件ともに同じ内容となっている
- 本案訴訟(義務付け訴訟または差止訴訟)が適法に係属
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある
- 本案に理由があるとみえる(勝訴見込みがある)
- 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない
※1,2,3は積極的要件、4は消極的要件
償うことのできない損害とは
仮の義務付け・仮の差止めによって仮の救済を受けようとするのであれば「償うことのできない損害」が生じようとしていることが求められる。それだけ大きな損害が生じそうであるから迅速な救済を求める、という意味合いになる。
行政庁がすでにした処分に対する仮の救済ではなく、まだ行政庁がしていない処分に対し、本案判決と同等の内容を裁判所が仮に命じることになるため、これだけ難易度の高い要件が設定されている。
準用規定
行訴法37条の5第4項および第5項には、仮の義務付けと仮の差止めに対する準用規定が多く設けられている。
- 疎明に基づいて決定すること(執行停止の規定を準用)
- 即時抗告の規定(執行停止の規定を準用)
- 内閣総理大臣の異議(執行停止の規定を準用)
- 拘束力(取消判決の規定を準用)
一方で、第三者効については準用されていない。
判例:保育園入園の仮の義務付け(東京地決平18.1.25)
事例
カニューレを着けた児童の普通保育園への入園が不承諾となり、入園を承諾するように仮の義務付けを求めた
結論
仮の義務付けは認められた
理由
保育を受ける機会を失うことによる損害は、原状回復ができず、金銭賠償による填補もできない。また、たん等の吸引等に関して配慮を要するとしても、その程度に照らし、普通保育園で保育は可能であると判断された。
なお、差止訴訟に関してはこちらで詳しく解説

それぞれの比較(まとめ)
執行停止 | 仮の義務付け | 仮の差止め | |
本案訴訟 | 取消訴訟、無効等確認訴訟など | 義務付け訴訟 | 差止訴訟 |
積極的要件 | ・重大な損害を避けるために緊急の必要がある | ・償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある ・本案に理由があるとみえる | ・償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある ・本案に理由があるとみえる |
消極的要件 | ・公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがない ・本案に理由がないとみえない | ・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない | ・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない |
第三者効 | あり | なし | なし |
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