職権探知主義の説明、その具体例、弁論主義との比較など

民事訴訟制度では処分権主義(原告が何を解決するか決める)弁論主義(証拠は当事者が集める)がその根本の理念とされる。しかし常にこれらを徹底することが合理的ではないため、例外的にこれらの主義に従わない場面もある。
職権探知主義』はその代表例。ここでは職権探知主義に関する解説とこの考え方が適用される具体例を紹介し、それに相対する弁論主義についても触れる。

職権探知主義とは

職権探知主義とは、裁判所が証拠資料の収集をすべきという考え方のこと。

 

より大きな枠組みとしては「職権主義」がある。
→ 裁判所が主導権を握る考え方
これに対して「当事者主義」は原告と被告が主導権を握る考え方。

この職権主義の中に職権探知主義が含まれるが、他にも職権進行主義(審理の期日を決めるなど)や釈明権(裁判所が当事者に質問して説明させる)などもあり、常に当事者主義のみが採用されるわけではない。当事者主義を徹底すると真実発見がおそろかになるおそれがあることがその理由。

弁論主義について

職権探知主義の反対概念である「弁論主義について説明すると、これは「訴訟資料の収集を当事者の権能および責任とする考え方」のこと。第一テーゼ・第二テーゼ・第三テーゼがある。

  1. (第一テーゼ)裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならない
  2. (第二テーゼ)裁判所は、当事者間に争いのない事実は、真実であるかどうかを問わず、そのまま判決の資料にしなければならない
  3. (第三テーゼ)裁判所は、当事者間に争いのある事実を認定するには、当事者の申し出た証拠によらなければならない
この第三テーゼが「職権証拠調べの禁止」を意味する
= ある事実の認定には根拠となる証拠が必要だが、その証拠の提出は当事者が行うべきで、裁判所が証拠を収集してはいけないという原理。
なぜなら裁判所による証拠調べは当事者の不意打ちになるおそれがあるため

例外的に職権探知主義が採用されるケース

以上のように、原則は弁論主義が訴訟において採用されるが、例外的には裁判所の職権による証拠調べも認められる。

例えば専属管轄訴訟能力の有無といった公益性の高い訴訟要件に関することは職権証拠調べが行われる。

そのため、当事者が訴訟能力を有するかどうかに関しては、相手方が争わなくても裁判所は職権で調査をしなければならない。また、原告に当事者能力がない場合には、被告がその旨の主張をしなくても裁判所は訴えを却下することができる。

人事訴訟手続においても、当事者による自白の陳述があっても、この事実につき裁判上の自白は成立しない。そのため、例えば親子関係不存在確認の訴えで、被告が、子の懐胎が可能な時期に別居していたとの原告の主張を認める旨陳述しても、この事実につき裁判上の自白は成立しない。

他にも以下のような例が挙げられる。

例1:夫婦の同居を命じる審判の手続に関しても職権探知主義が採用される。弁論主義による審理は行われない。

例2:訴訟代理人の代理権の存否に疑義が生じたときには、裁判所は職権でその調査を行う。
訴訟代理権の存否は訴訟行為の有効要件である。そのためこのことに関して裁判所は職権で調査をしなければならない。

例3:訴え取下げの有効性についても裁判所は職権で調査しなければならない。
訴えの取下げの効力は訴訟係属の有無にかかわるため、裁判所は、その有効性に関して職権で調査しなければならない。

非訟事件では職権探知主義が原則

非訟事件とは、取り扱うべき紛争があるものの、通常の民事訴訟とは別の手続きによって処理すべき事件のこと。訴訟事件では弁論主義が原則とされるところ、非訟事件では例外としてではなく、原則として職権探知主義が採られる。そのため訴訟と非訟の違いを分ける大きな特徴と言える。