【入門-刑法理論】罪刑法定主義や行為無価値論などを解説

刑法理論について解説しています。基本的には刑法の入門者・初学者向けに解説していますが、すでに勉強済みの方も復習に見ていただければと思います。

特に下のポイントは要チェックです。

  • 罪刑法定主義を支える民主主義・自由主義の原理について
  • 属地主義が原則で、属人主義などが適用される場面もあること
  • 行為無価値論と結果無価値論における責任性と違法性の本質

詳しく見ていきましょう。

罪刑法定主義

罪刑法定主義とは
「どんな行為が犯罪で、どんな刑罰を科すか、これらは法律で定めておかなければならない」
という考え方のことです。

この罪刑法定主義は、近代民主主義自由主義思想の中で、国家権力から国民の権利や自由を守るためにできた非常に重要な考え方です。

罪刑法定主義について、
日本国憲法においては、31条に「法律の定める手続によらなければ刑罰を科せられない」と定められています。
さらに刑法39条には「遡及処罰の禁止」が規定されています。

罪刑法定主義は刑法において最重要の理論となりますが、日本の刑法において罪刑法定主義について明記はされていません。憲法には規定が置かれており、刑法では明文化されていないものの基本原則としてとらえられています。

罪刑法定主義の原理

罪刑法定主義の原理は、

  1. 民主主義の原理
  2. 自由主義の原理

に分けることができます。

「民主主義の原理」とは
「国民を代表する国会の法律によって罪と罰を定める」という「法律主義」のことです。

「自由主義の原理」とは

遡及処罰の禁止にも繋がる原理で、「事後法の禁止」とも呼ばれます。

この民主主義の原理・自由主義の原理のほか、
罪刑法定主義を支える原理として「類推解釈の禁止」「デュープロセス理論」があります。

法律主義

罪刑法定主義を支える1つの大きな原理「民主主義の原理」とは
民主的なコントロールの及ぶ国会によって犯罪や処罰内容を定めるべきとする考え方です。

「法律主義」とも呼べると説明しました。
この法律主義とは
罪刑法定主義の民主主義的側面であり国会による制定が求められるのであり慣習刑法は原則として禁止されます。
ただしこれには3つの例外があります。

①政令(内閣の命令)に罰則が制定される場合

政令とは、内閣による命令のことです。
内閣とは行政権のトップを成す組織で、立法権を担う国会とは異なります。
しかし下の憲法73条6号では、法律の委任がある場合にのみこの権利があることを認めています。

憲法第73条「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行う。」

6号「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」

②地方公共団体の条例

条例の場合、一定の範囲内で罰則の制定も認められています。
例えば、青少年条例や公安条例などが挙げられます。

③処罰される行為の具体的決定の委任

刑罰の内容が法律で定められていることを前提に、
「その刑罰がどのような行為に対し適用されるのか」という内容にだけは行政機関に委任することが認められています。

デュープロセスとは

デュープロセスとは
「適正手続」と訳されます。

アメリカで発展してきた考え方で、刑法の内容の適正だけでなく、その適用にかかる手続も適正であることが求められるという考え方です。
犯罪に対する刑罰のバランスを内容とします。

類推解釈の禁止

罪刑法定主義では、類推解釈を禁止しています。
刑法における類推解釈を認めてしまうと、実質的に罪刑法定主義が否定されてしまいます。

類推解釈とは
「法律に規定がない事柄について、似た事柄に関する法律を適用すること」
を言います。

類推解釈とよく比較されるものに「拡張解釈」があります。

遡及処罰の禁止

適法な行為が、後の法によって禁止になったとします。
この場合、遡及処罰を認めるのであれば、過去にした行為を理由に処罰することが可能となってしまいます。

過去には犯罪に当たる行為とはされていなかったにも関わらず、このような運用がなされると国民は安心して行動できなくなります。

同様に、行為時に軽い刑罰を法定していたにも関わらず事後的に重く設定しなおされた場合、これを適用することは許されません。事後法の適用は基本的には禁止されます。

こうした考え方を遡及処罰の禁止(「事後法禁止の原則」とも)と呼ぶのです。

⇔ただしその逆、事後的に刑罰が軽くなった場合には改正後の内容が適用されると刑法6条に規定があります。そのためこの場合だけは例外です。

刑法第6条「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。」

日本の刑法がどこまで適用されるのか

日本の刑法は、外国でも適用することはできるのでしょうか。

外国人に対してはどうでしょうか。

例えば、日本人がアメリカで事件を起こした場合に日本国内の刑法によってさばくことはできるのでしょうか。
このように、刑法の適用範囲に関する考え方には「属地主義」「属人主義」「保護主義」「世界主義」などがあります。

属地主義が原則

日本の刑法では「属地主義」を原則としています。

属地主義とは

「外国人による犯罪であっても、日本国内で行われたのであれば、日本の刑罰を適用させる」
という考え方です。

刑法の第1条でも属地主義が明記されています。

そのうえで、第1条2項では、
海外にいる船や航空機でも、日本のものであればその内部で行われる犯罪について日本の刑法を適用させると定められています。

属人主義とは

属人主義とは
「日本人がした犯罪なら、どの国で行われたとしても、日本の刑法適用する」
という考え方です。

保護主義とは

保護主義とは
「何人が、どの国で犯罪をしても、日本の刑法を適用する」
という考え方です。

保護主義は日本人に対する重大な犯罪や、通貨偽造罪、内乱罪などで適用されます。

世界主義とは
保護主義をさらに拡大し、
「外国人が外国で罪を犯し、外国の利益を侵害したという場合でも日本の刑法を適用する」
と考えます。

日本の法益を侵害したかどうかも問いません。

責任と違法の本質

刑法における責任と違法について、その本質をどのように考えるのか、考え方にも対立があります。なお、下で解説する「行為無価値論」「結果無価値論」は
無価値」の意味が理解しにくいためその内容も難しく感じますが、ここでは

「無価値」=「不正」や「マイナスの価値」

と解釈すれば頭に入りやすくなると思います。

結果無価値論とは

「結果無価値論」では
結果が無価値(=つまり結果が不正)であることを違法性の本質
と考えます。

刑法の法益保護機能を重視し、犯罪の本質は法益に対する侵害や危険であると捉えるのです。法益を侵害したという結果に着目します。

責任性の本質については社会的非難可能性と考えます。
この考え方によると、人権尊重の見地から、国家による刑罰権の限界を強調することになります。

行為無価値論とは

結果無価値論に対し「行為無価値論」では
悪い結果はもちろん行為自体が無価値(=つまり結果または行為が不正)であることが違法性の本質であると考えます。

行為無価値論では、刑法は社会倫理的機能を持つものとし、犯罪が社会倫理規範に対し違反したということに着目します。

責任性の本質は道義的非難可能性にあるとします。そうすれば、この犯罪に対する刑罰は道義的応報と捉えることができます。

社会的倫理に反すること自体(行為そのもの)も犯罪と考える、誰かの利益を侵害するような悪い結果、およびそのためにした行為が犯罪にあたることとなります。

刑法理論の古典学派と近代学派

刑法理論は大きく古典学派と近代学派に分かれます。
古典学派は自由な意志を持った合理的な人間を基本に考え、近代学派は素質と環境によって人間は決定付けられている存在であると考えます。

・古典学派

刑罰は犯罪に対する道義的責任。

犯罪行為に対し刑罰を予告して犯罪を予防=「一般予防主義」

・近代学派

刑罰は犯人を教育・改善するためのもの。=「特別予防主義」