- 権利能力とは、権利義務の帰属主体となるための能力。
- 意思能力とは、自らの行為につき法的な結果を弁識するための能力。
- 行為能力とは、自ら単体で確定的に有効な意思表示をするための能力。
以下ではこれらをもう少し詳しく、それぞれの違いや具体例を交えて解説していく。
「権利能力」とは、権利義務の主体となる能力
権利能力とは、権利義務の帰属主体となる地位・資格のことをいう。
(例えば、不動産の所有者になったり、売主になったりするすることができるようになるなど)
意識して取得するような能力ではなく、すべての自然人には権利能力が認められる。
出生により備わる
権利能力の始期は出生とされる。
民法3条にも規定されている。
第3条「私権の享有は、出生に始まる。」
出生により人は権利能力を取得するため、赤ちゃんは不動産の所有者となれることになる。
→ なお、民法ではこの出生の時期を胎児の身体が母体から全部露出した時と考える。
権利能力の終期は死亡時とされる。
死亡によって権利能力は失われる。
その結果、死亡者に帰属していた権利義務は相続人に承継される。
胎児の権利能力
前項で説明した通り権利能力は出生後の取得となるため、胎児は権利能力を有しないのが原則。
しかし例外がある。
- 不法行為に基づく損害賠償(民法721条)
- 相続(民法886条)
- 遺贈(民法965条)
第721条「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。」
第886条「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」
2「前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」
第965条「第886条・・・の規定は、受遺者について準用する。」
上の3ケースにおいては、胎児を「既に生まれたもの」とみなす。
「既に生まれたもの」
この言葉の意味については、停止条件説が採られている(判例・通説)。
厳密には、胎児の段階で権利能力が認められるわけではなく、生きて生まれることで、胎児の時に起こった不法行為や相続について遡って権利能力を取得すると考える。そのため、胎児の段階では、親などの法定代理人でも胎児を代理してその権利を行使することはできない。
なお、権利能力に関連して問われることの多い権利能力なき社団についてはこちらの記事。

民事訴訟法の当事者能力と対応する
「当事者能力」とは、訴訟や法的手続において当事者となることができる能力をいう。
当事者能力は訴訟における権利能力のような意義を持つため、
権利能力と当事者能力はセットにして覚えると良い。
「意思能力」とは、法律行為の意味を理解できる能力
意思能力とは、自らの行為につき、法的な結果を弁識できる能力をいう。
(つまり、赤ちゃんには意思能力が認められない)
認知症に関しては程度の問題になってくるが、一般に中程度の認知症であれば意思能力が認められず、法律行為をしても無効になると言われている。
このように、意思能力は有効な法律行為をするために必須の能力である。
(意思能力なき者のした法律行為は無効)
民法3条の2にその規定がある。
第3条の2「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」
例えば契約の取消や解除を求める行為。遺言なども。
およそ10歳で備わる
意思能力の有無に関して、明確な判断基準は設けられていない。
(具体的に「何歳から認められる」、などと年齢で判断基準が定まるわけではない)
しかし一般的には10歳ほどの精神能力により意思能力が備わっているものと考えるのが通常とされる。
ただ、実際に意思能力の有無を判断するには各人・各事案で考えなくてはならない。
ここで問題となるのがその区別の煩雑さである。
ある者が法律行為をしたとき、行為ごとに意思能力の有無を判断したのでは非常に面倒で、かつ、取引の相手方の地位を不安定なものとしてしまう。
そもそも、ある行為につき正常な判断能力があったかどうかを区別するのは容易でない。
これにより画一的にその行為の有効性(実際には取消すことができるかどうか)を見分けられるようにしている。
この行為能力について次項以下で見ていく。
「行為能力」とは、有効な法律行為ができる能力
行為能力とは、自ら単体で、確定的に有効な意思表示ができる能力を言う。
意思能力と似ているが、意思能力は判断能力の有無がポイントとなるところ、行為能力は結果としてその者のする意思表示が有効になるかどうかがポイントとなる。
わかりやすいのは未成年者である。
例えば16歳であれば意思能力は備わっていることが通常であるが、行為能力を有しているとは限らない。自らの行為につき法的な結果は弁識できても、法律上、未成年は制限行為能力者とされるからである。
20歳で備わる
原則的には20歳から行為能力が備わるとされる。
20歳未満の未成年者は「制限行為能力者」として、一律に行為能力に制限がかけられている。
→ これは未成年者など、一部の者の保護を図るための制度である。
制限行為能力者の制度
法律行為が無効になるかどうかは、意思能力の有無で決せられる。
しかしその行為時において、その者に意思能力があったかどうかを判断するのは困難ということで、制限行為能力者の制度が設けられている。
以下の4類型を設け、未成年者以外のものについては、家裁による審判を受けることでその認定を受ける。
- 未成年者
- 成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く者)
- 被保佐人(精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者)
- 被補助人(精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者)
いずれかに分類されることで都度意思能力の有無を判断する必要がなくなり、行為能力に制限が掛かっている者として一律に扱うことができるようになる。
意思能力と行為能力の違い
意思能力と行為能力はやや性質が似ているが、以下で大きく異なる。
行為の結果が「無効」になるか「取消し」になるか
意思能力のない者がした法律行為は無効。
一方で、
行為能力のない者、制限行為能力者のした法律行為は取消すことができるにとどまる。
(つまりそれまでは有効)
例えば未成年者や被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人が法定代理人、保佐人、補助人の同意を得ずに一定の法律行為をした場合、それは取り消すことができる。
また成年被後見人の行為は成年後見人の同意があったとしても取消すことができるのが原則である。
能力有無の判断方法
意思能力の有無については、行為ごとに判断を要する。
一方、
行為能力に関しては、制限行為能力者かどうかで画一的に法律行為の効果を判断できる。
- 意思能力の有無:行為ごとに判断。
- 行為能力の有無:行為が民法に定められた制限行為能力者かどうかで判断。
民事訴訟法上の訴訟能力との比較
民事訴訟法を学ぶと「訴訟能力」というものが出てくる。
訴訟能力とは、単独で有効に訴訟行為をする能力である。
訴訟行為の時点において、少なくとも意思能力を有していないのであれば、当該訴訟行為は効力を有しないとされる。
そして訴訟能力の有無については、民法その他の法令に従い、行為能力によって定まるのが原則。
民訴法での「訴訟能力」は民法での「行為能力」と対になっていると考えることができる。
おまけ:責任能力
「責任能力」についても言及しておく。
一般的に責任能力とは、自らの行った行為について責任を負うことのできる能力とされる。
刑法上の責任能力の説明では、「事物の是非・善悪を弁別し、かつ、それに従って行動する能力」と言われる。
民法では特に、「不法行為上の責任を判断しうる能力」をいう。
一般的には12歳で責任能力を備えるとされる。
また心神喪失者は責任を弁識する能力を欠くとして、不法行為の損害賠償責任を負わない。
練習問題
難易度「易」_全6問 | 難易度「並」_全4問 |
練習問題のページに行く |