債権等の消滅時効は、以下の期間を経過することで、完成する。
- 権利が行使できることを知った時から5年間
- 権利が行使できる時から10年間
しかし債権の具体的な契約内容によっては「いつから時効が進行するのか」に違いがある。ここでは、この消滅時効の「起算点」に関して解説する。
また、これに併せて「いつから義務の履行を送れてしまったことになるのか」という「履行遅滞」の時期に関しても言及する。
起算点・履行遅滞の時期についてまとめた表は以下。
種類 | 消滅時効の起算点 | 履行遅滞の時期 |
確定期限の定めのある債権 | 設定した期限 | 設定した期限 |
不確定期限の定めのある債権 | 期限の到来 | 期限到来を債務者が知った時等 |
期限の定めのない債権 | 債権の成立時 | 履行の請求時 |
>債務不履行による損害賠償請求権 | (元の債権につき)履行請求できる時 | 〃 |
>契約解除による原状回復請求権 | 契約の解除時 | 〃 |
>不法行為による損害賠償請求権 | 損害+加害者を知った時 | 不法行為時 |
>弁済期の定めのない消費貸借 | 債権成立から相当期間経過後 | 催告から相当期間経過後 |
停止条件付債権 | 条件の成就時 | 成就を債務者が知った時等 |
これらについて具体例を交えながら詳しく解説していく。
確定期限の定めのある債権
履行遅滞 = 期限が到来した時
(履行遅滞について)
第412条「債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。」
確定期限とは「到来する期日が確定している期限」のこと。
例)借金をするとき、9月20日にお金を返す約束をしていた場合を考える。
このとき9月20日の確定期日が存在するため、貸主の持つ請求権は、確定期限の定めのある債権であると言える。
9月20日に返すということは、その日いっぱいまでお金を借りられるということでもあるため、
・返却を請求できる日
・履行が遅れた日
これらは、9月21日に到来する。
よって、
・消滅時効の起算点
・履行遅滞
となる日はいずれも9月21日ということになる。
不確定期限の定めのある債権
履行遅滞 = 期限到来を債務者が知った時( or 催告をした時)
(履行遅滞について)
第412条2「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。」
不確定期限とは「到来する期日が確定していない期限」のこと。
例1)次に気温が30度を超えた日
例2)母が死亡した日
このように、必ずその日は到来するもののいつやってくるか分からないというケースを不確定期限という。
仮に、母が死亡すればその所有する土地を譲渡するという契約があったとする。この場合、譲受人の請求権は、不確定期限の定めのある債権であると言える。
そこでこの債権の消滅時効の起算点は母が死亡した時となり、
履行遅滞に陥るのは債務者がその事実を知った時か、催告を受けた時となる。
出世払いの扱い
期限が、確定期日によって定まっているかどうかで「確定期限の定めのある債権」「不確定期限の定めのある債権」が区別される。
これに対し、条件は、不確定期限と少し似たニュアンスであり区別が必ずしも明確ではないものの、異なるものとして扱われる。
ここで問題となるのが「出世払いの特約がある契約」。
例)出世払いの約束
Xは、Yに頼まれて大金を貸した。しかし経済的に困窮しているYであったため、Xは「出世したときに返してくれればいい」と言った。
しかしその後もYは真面目に働こうとせず、出世しようとする姿勢を見せない。憤慨したXは返済を求めたものの、Yは「まだ出世していないから返す必要はない」と言い応じてくれない。
ここで問題なのは、「出世をしたら返す」ということが不確定期限として扱われるのか、それとも条件を付けたものとして扱うのかということ。
・出世は不確実な事柄である = 条件
・出世は時期が不明確なだけ = 不確定期限
このように、捉えようにより結果が分かれる。
これに対し判例は以下のように判断
→ 出世払いの特約は、「出世するかどうかが判明した時点」を返済の時期と設定するもの
→ その不確定な時期まで返済を猶予しているに過ぎない
→ よって、不確定期限を付けた契約。
Yの出世がほぼ不可能となるような事態に陥れば永久に返済をする必要がなくなり、一方に都合が良すぎる結果を招く。
出世払いをこのように扱うことで、
Yが出世できないことが明らかになれば、不確定であった期限が到来することになり、直ちに返済すべき時期が訪れる。
期限の定めのない債権
履行遅滞 = 履行の請求時
(履行遅滞について)
第412条3「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」
そのため、債務者には不利な状況であると言えるが、債権成立と同時に履行期にあるため債務者はできるだけ早く履行すれば良い。もしくは期限を定めてもらうなどの必要がある。
※期限の定めのない消費貸借契約の場合には特則あり(後述)
以下の3つの債権に関しても、広義には期限の定めのない債権である。ただし細かい起算点や履行遅滞時期には注意が必要なため、次項以下で詳しく解説する。
- 債務不履行による損害賠償請求権
- 契約解除による原状回復請求権
- 不法行為による損害賠償請求権
また、弁済期の定めのない債権についても最後に解説する。
債務不履行による損害賠償請求権
履行遅滞 = 履行の請求時
債務不履行によって生じた損害賠償請求権は、
期限の定めのない請求権として成り立つ。
そして期限の定めのない債権では、
・債権成立時 = 消滅時効の起算点
となるところ、
債務不履行による損害賠償請求権は、
本来の債権について履行請求できる時から行使が可能となるため、この時から債権が成立したと考える。
そのため消滅時効は、
・債権成立時 = 元の債権につき請求できる時 = 起算点
となる。
※履行遅滞については原則通り請求を受けた時から。
契約解除による原状回復請求権
履行遅滞 = 履行の請求時
期限の定めのない請求権として成り立つ。
そして契約解除による原状回復請求権は契約を解除した時点で発生するため、この時点が債権の成立時となる。よって、
・債権成立時 = 契約の解除時 = 起算点
となる。
※履行遅滞については原則通り請求を受けた時から。
不法行為による損害賠償請求権
履行遅滞 = 履行の請求時
不法行為による損害賠償請求権についてもこれまで同様に考える。
賠償請求権を行使するには、
・不法行為による損害
・不法行為を働いた加害者
の両方を知る必要がある。
これらを知った時点が消滅時効の起算点となる。
また履行遅滞の時期に関して、被害者救済の観点から、
特例として不法行為時から履行遅滞に陥ることになっている。
弁済期のない消費貸借
履行遅滞 = 催告から相当期間経過後
(返還の時期)
第591条「当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。」
消費貸借契約とは例えば、借金をするときの契約がこれにあたる。
そして借金の弁済期を定めなかった場合、期限の定めのない債権の原則に従えば、
・債権成立の時から消滅時効の起算点
・弁済を請求した時から履行遅滞
ということになる。
しかし消費貸借契約の性質上、せっかく借りたのにすぐに請求され、履行遅滞になってしまうのでは目的が達成されない。
(通常は何かに利用するためにお金等を借りたと想定される)
そこで、弁済期のない消費貸借では、利用期間として「相当期間」が設けられている。
例)期限を定めない契約
Xは、Yにお金を貸したが、返済期日については定めず「お金に困る時が来たら返してもらうよ」などと約束した。
→ 契約により債権が成立した時から相当期間経過後、消滅時効の起算点となる
→ Xはいきなり「返して」と請求するのではなく、相当期間を設けて催告をする
→ この相当期間経過後、履行遅滞となる
ものを借り、その後借りたそのもの自体を返すことになる賃貸借とは異なる。借りたお金それ自体を返すのではなく一度消費した上で同等のもの返すため「消費」貸借契約とされる。
使用貸借でも賃貸借同様、借りたものそれ自体を再び返すことになるため、消費貸借とは異なる。なお、使用貸借は無料での貸し借りであり、賃料が発生する賃貸借契約とも区別される。
停止条件付債権
履行遅滞 = 成就を債務者が知った時、又は請求時
停止条件付債権とは、
将来発生するかどうか不確定な事実を条件として効力を生じさせる債権のこと。
例)停止条件付債権
入社が決まれば不動産を購入するという契約など。「入社する」ということが停止条件となる。入社をすれば条件成就となり、契約の効力が生じる。
逆に条件が成就しなければ、契約はなかったものと扱われる。
条件の内容については当事者間で自由に決めることが可能であるが、不法行為や不可能な事実を条件として設定しても無効となる。
いろんな消滅時効の期間
債権の性質ごとに消滅時効の起算点が異なるが、その起算点からどれだけの期間経過すれば時効完成を迎えるのか、このことについては以下のページで解説。

時効の援用者(直接に利益を受ける者)
時効の援用ができるシリーズ(つまり直接に利益を受ける者)
- 保証人系は、主たる債務または被担保債権の消滅時効の援用できる。
(主債務者が時効完成後に債務の承認をしても援用できる) - 抵当不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効が援用できる。
- 詐害行為の受益者は、被保全債権の消滅時効が援用できる。
- 共同相続人の1人は、自己の相続分の限度で取得時効の援用ができる。
↕
時効の援用ができないシリーズ(つまり直接に利益を受けるとは言えない者)
- 建物の賃借人は、賃貸人のための土地所有権の取得時効について援用はできない。
- 後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用できない。受け入れるべき。
- 一般債権者は、債務者の別の債務について消滅を援用できないが、無資力なら債権者代位によって実現できる。
練習問題
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