国賠法1条の要件~公権力の行使や違法の意味を解説~

以下では国家賠償法1条1項に基づき、国等に賠償責任が生じるための要件を解説する。また、そもそも公務員のした行為につきなぜ国等が責任を負うのか、と言ったことにも言及する。

国賠法1条の要件

国家賠償法1条1項は以下のように定められている。

「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

この条文を分けて見てみると、国又は公共団体が賠償責任を負うには少なくとも下の内容を満たす必要があると言える。

  • 公権力の行使がされていること
  • 公務員が行うこと
  • 職務を行うについて行われていること
  • 違法な行為であること

また、故意・過失の存在や損害が生じていることなども当然必要である。以下ではこの4点に着目してその要件を整理していく。

「公権力の行使」であること

公権力の行使とは、「私経済作用を除く公の行政作用」を意味する(広義説、通説・判例)。

この広義説を採った判例
・学校で起こった事故における国賠法の適用を認めた事例がある(最判昭62.2.6)
・行政指導における国賠法の適用を認めた事例がある(最判平5.2.18)
※広義説以外での「公権力の行使」の意味
狭義説:優越的な意志の発動としての作用
最広義説:国等のするすべての作用

なお公権力の行使にあたらなくても、民法715条の使用者責任などを理由に国等へ責任を追及することは可能。

「公務員」であること

加害行為を行った者が、国または公共団体の「公務員」でなければならない。そしてここでの公務員には、司法作用を行使する裁判官や、立法作用を行使する国会議員なども該当する。さらには、国等から公権力の行使を委ねられた者も含まれるため、一般的に公務員と呼ぶ場合よりも広い意味で捉えることができる。

ただし問題は、民間の機関が国賠法1条1項にいう公務員に当たる場合において、誰が責任を負うのかというところにある。

この点、ある株式会社が指定確認検査機関としてした建築確認を発端に、住民らが損害賠償訴訟を起こした事例がある。ここでは被告が地方公共団体になるのか、それとも建築確認をした株式会社になるのかが問題視された。これに対し最高裁は、建築確認が特定行政庁の監督下で行われるものでありその事務の帰属する行政主体は、(建築物の確認を行う権限を持つ建築主事が置かれる)地方公共団体にあるとしている(最決平17.6.24)。

「職務行為」であること

条文にあるように、「職務を行うについて」加害行為が行われなければならない。つまり加害行為と職務に一定の関連性が認められる必要がある。そしてどの場合に職務関連性が認められるのかと言うと、判例では、外形標準説が採られている。これは、行為の外形を見て職務行為と判断できるものであれば国賠法1条1項にいう「職務を行うについて」と言うことができるとする説である。

職務の外形を備える行為に適用を認めた判例(最判昭31.11.30)
警察官が非番であるにもかかわらずその制服を着用し、加害行為に及んだという事件。被害者は東京都に損害賠償を求めた。これに対し最高裁は、「客観的に職務遂行の外形を有する行為により損害を与えたときには国家賠償法1条が適用される」として東京都の責任を認めている。

「違法」であること

国家賠償法による責任追及をする場合には、国等による行為が違法でなければならない(適法な国家作用による損失なら損失補償の制度によって救済を求める)。

そしてここでの違法の意味は、法の定める要件に反したかどうか、あるいは公務員が職務上負っている注意義務に反したかどうかで考える。判例では、前者の説を採用する例と、後者の説を採用する例とに分かれる。後者の(職務義務に反したから違法であると考える)説は、主に特殊な国家作用において採用される。

無罪判決となったときの検察官の公訴提起(最判昭53.10.20)
無罪判決が確定した場合の、検察官のした公訴提起が違法になるのかどうかということが争われた事例。無罪であったのなら結果的にそれは違法であると捉える説もあるが、判例は、無罪判決になったからといってただちに違法とはならないと判断している。ただし合理的判断に基づいて有罪と認められる嫌疑が存在していたことが前提として求められる。
立法行為に対する違法性の判断(最判昭60.11.21)
在宅投票制度廃止事件のことである。いったん在宅投票制度が設けられたもののこれが廃止され、その結果投票できなかった者が当該制度を復活させなかったという、立法行為に対してこれを違法行為だとして国に対し損害賠償を請求した。
最高裁は、「立法の内容が憲法の一義的な文言に反しているにもかかわらず、国会があえて当該立法を行うといった場合でなければ、国賠法1条1項規定の適用上違法の評価は受けない」として請求を棄却している。

上の在宅投票制度廃止事件の判例のように考えると、立法行為に対して国家賠償法上違法になることは現実的にないようにも見える。しかしこの事件の後に起こった在外日本人選挙権訴訟では、立法行為に対する国家賠償法上違法を認めている(最大判平17.9.14)。

なぜ公務員の責任を国等が負うのか

公務員の加害行為に関して、国または公共団体が責任を負うとあるが、これはなぜなのか。このことに関して2つの説がある。

自己責任説

自己責任説とは、国等が自ら作り出した危険がもととなり損害が生じたのだから、その責任を負うべきと考える説

代位責任説

代位責任説とは、本来は公務員が責任を負うべきだが、国等が代わりにその責任を負うと考える説

自己責任説にしろ代位責任説にしろ、どちらに対しても批判はし得る。しかし国家賠償法1条1項では公務員の「故意」または「過失」を要件としている。とすれば公務員が本来責任を負うべきものと考えるほうが自然であり、通説では代位責任説で考えられている。

なお代位責任説を採用するのであれば、違法行為をはたらいた公務員を特定する必要があるのではないかとも思われるが、判例によると必ずしも公務員の特定を要しないと考えられている。

加害行為の特定を要さないとした判例(最判昭57.4.1)
「具体的加害行為が特定できない場合でも、公務員の一連の行為のいずれかにより損害が発生し、いずれの行為に関しても同じ行政主体が賠償責任を負うのであれば、損害賠償責任が認められる」と判示されている。