二重の基準論・比較衡量論をわかりやすく解説。判例や表現の自由に対する規制など


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違憲審査基準(人権に対する制限について、憲法違反かどうかを判断する基準)について言及する。

例えば「公共の福祉」を理由に制限をかけることもあるが、
公共の福祉を理由すればどんな規制でも認められるわけではない。
その線引きをするための基準が必要となる。

そこで「比較衡量論」と「二重の基準論」が出てくる。
これらは特に表現の自由に対する違憲審査基準として重要とされる。

以下で、「比較衡量論」と「二重の基準論」ではどのような考え方をするのか、
関連する判例や、どのような批判が成り立つのか、解説していく。

比較衡量論とは

まずは「比較衡量論」から解説していく。
利益衡量論と呼ばれることもある)

失われる利益と得られる利益を比較する

比較衡量論は、利益衡量論と呼ばれることもあるように、
2つの利益を量り、比較する論理である。

具体的には、
人権を制限することで得られる利益」と
制限より失われる利益
を比較する。

そして、制限によって得られる利益のほうが大きいと評価できるなら、人権制限は憲法違反ではないとする

関連判例

比較衡量論の考え方を取り入れた判例がある。

< 博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭44.11.26) >

最高裁は、
「公正な裁判のためにフィルムが必要とされる程度」と、
「そのフィルムの提出を命じることで妨げられる取材の自由、および報道の自由に対する影響」、
これらを比較衡量して検討するべきとしている。

つまり、
前者を「人権制限によって得られる利益」、
後者を「失われる利益」、
として両者を天秤にかけて考えるとしている。

比較衡量論への批判

比較衡量論は、個々の事件の具体的状況を踏まえて適当な結論を見出そうとするものであり、抽象的な結論付けの回避が一定程度期待される。
裁判所が原理原則に縛られることなく判断できるため、事件の実情に応じた判決も出しやすくなる。

一方で、比較における利益の大小の判断基準があいまいであるなどの批判もある。
しかも、国家権力と国民との利益衡量が行われる場面では、国家権力側の利益が優先されてしまう可能性が高いと言え、問題視もされている。

二重の基準論とは

次に「二重の基準論」について解説していく。
こちらは事案ごとの影響具合に着目するのではなく、制限される権利の性質に着目する考え方となる。

精神的自由を経済的自由より優先する

二重の基準論では、
精神的自由に対する制限」なのか、
経済的自由に対する制限」なのか、
によって憲法違反の判断基準を変える。

表現の自由などに代表される精神的自由への制限をかける行為に関しては厳しく違憲審査を行い(規制が違憲となりやすい)、
経済的自由に対する制限であれば比較的緩く判断する(規制をかけても合憲となりやすい)、
というものである。

このように2つの基準を設けることから「二重の」基準論と言われる。

なぜ精神的自由が優先されるのか
こちらは民主主義を支える非常に重要なものと考えられているからである。
仮に表現の自由に対する規制が簡単に合憲とされてしまうと、政治に対する批判演説をするハードルが高くなってしまい、独裁的な方向へ傾いてしまう。逆に、経済的自由が規制されても民主主義への影響は比較的小さいと言える。
規制内容に文句がある場合でも、あまり規制されていない精神的自由を介してその制限内容の良し悪しを議論することができ、ルール修正への道も閉ざされない。

表現の自由への制限(内容規制と内容中立規制)

表現の自由に対する規制ではさらに2つのパターンで分けて考える。

内容規制と②内容中立規制である。

 

< ①内容規制について >

内容規制」では、表現の内容そのものを規制する。
表現の方法などを制限するのではなく、どのような表現をしているのかに着目する。

表現の内容自体を制限すると、思想統制に繋がりかねないためとても危険である。
そのため内容規制に対しては、非常に厳格な基準とされる「明白かつ現在の危険の基準」で検討する。
→ よっぽどの内容でなければ規制は許されない。
→ 規制は憲法違反と判断されやすい。

 

< ②内容中立規制について >

内容中立規制」は、表現の内容そのものではなく、表現方法に対する規制を意味する。
表現をする時間帯の制限であったり、表現の場を規制したり、どのようにして表現するのかその方法に関する制限をかけるというもの。

例えば政治に対する批判をするのは構わないが、病院や学校の近くで大きな音を出して表現するのは止めなさい、といった規制になる。

この場合、規制をかけても別の場所や方法等で表現をする機会までは奪われないため、
内容規制に比べて緩やかな違憲審査が行われる。

関連判例

判例でも二重の基準論を認めた事例がある。
薬局距離制限事件(最大判昭50.430)である。

隣の薬局との距離が十分に取れていないという理由で薬局の開設が認められなかった事件。
その制限を定めた法律・条例が憲法違反ではないかと争われた。

最高裁は、
経済的自由の一つである職業選択の自由は、
精神的自由と比較して国や地方自治体による規制の要請は強いとした。

ただ、規制自体は違憲とされた。

二重の基準論への批判

二重の基準論では精神的自由と経済的自由とで違憲審査を分けるが、
はっきりといずれかに分けることができないこともあるという批判も成り立つ。

例えば職業選択の自由は一般には経済的自由権に分類されているが、個人の人格的価値と不可分で、人格権とも結び付くとする学説もある。

 

なお二重の基準論は一部を除いて判例理論とはされていない。
判例は比較衡量論を採っている。

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