「商行為」に該当する場合、民法に優先して商法が適用される。
例えば、代理権や留置権、質権、連帯債務・連帯保証のことなど、商取引の実勢に合わせて民法とは異なる扱いが認められている。
以下では商行為そのものについて触れた後、商行為における商法と民法の比較をしていく。
商行為とは
商法における「商行為」とは、何かの仕入れを行い転売、その利益によって稼ぎを得るということ。
そのため、自分がゼロから生み出したものを販売するとき、仕入れがないためここでの商行為とは言えないことになる。
しかしながら擬制商人という概念によって、仕入れのない行為に関しても商法を適用させられるようになっている。
商人と擬制商人
「商人」と「擬制商人」に関しては、商法第4条に規定がある。
第4条「この法律において『商人』とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。」
2「店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。」
同条から分かるように、商行為を自己の名でする者が商人である。
擬制商人に関する第2項は少しわかりにくいが、
上で説明した純粋な「商行為」でなくても、それに類似する行為を行う者は商人とみなし、これを擬制商人としている。
しかし第2項が適用されることで擬制商人、つまり商人としてみなされる者になる。
絶対的商行為
商法501条に規定されている行為は「絶対的商行為」として、行為者が商人であるかどうかを問わず商行為として認められ、商法が適用される。
第501条「次に掲げる行為は、商行為とする。」
一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
二 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
三 取引所においてする取引
四 手形その他の商業証券に関する行為
例えば、ある商品を転売して稼ぐ目的で購入したとき、第501条1号にいう商行為となる。
営業的商行為
絶対的商行為とは違い、営業としてする場合に限って商行為となるのが「営業的商行為」である。
商法502条に規定があり、13号まで列挙されている。簡単に例を挙げていく
- 不動産賃貸業を目的とする行為
- 製造や加工に関する行為
- 電力会社による電気の供給に関する行為
- 運送に関する行為
- 労務の請負
- 出版や印刷に関する行為
- ホテルにおける取引行為
- 銀行取引
- 保険取引
- 倉庫業に関する行為
- 問屋に関する行為
- 商行為の代理の引受け
- 信託の引受け
附属的商行為
さらに503条では、直接的には絶対的商行為や営業的商行為には該当しないものの、商人がその営業のためにする行為を「附属的商行為」としている。
例えば、備品や機械の買い入れなどの開業準備行為は商行為として商法が適用される。
商法と民法の比較
商行為の場合、下表のような、民法とは異なるルールが適用される。
以下でそれぞれ詳しく解説していく。
商法 | 民法 | |
代理 | ・顕名が不要 ・本人が死亡しても代理権は消滅しない | ・顕名が必要 ・本人の死亡で代理権消滅 |
契約の申込み | ・対話者間:削除(民法適用) ・隔地者間:申込み後相当の期間内に承諾の通知が発せられなければ失効 ・物品の保管義務あり | ・対話者間:対話中に承諾なければ失効 ・隔地者間:承諾の通知を受けるのに相当な期間経過するまでは撤回できない(失効しない) |
多数当事者間の債務 | ・債務が商行為なら連帯債務、連帯保証 | ・特約がなければ分割債務、単純保証 |
報酬請求権 | ・商人は特約なく報酬請求可 ・商人間だと特約なく利息も請求可 | ・特約なければ報酬請求不可 (委任:648条) |
法定利率 | ・削除(民法適用) | ・変動制 |
質権 | ・流質契約可能 | ・流質契約禁止 |
債務の履行場所 | ・債権者の営業所を住所より優先 | ・債権者の住所で履行 |
留置権 | ・留置物と債権の牽連性不要 | ・留置物と債権の牽連性必要 |
商事消滅時効 | ・削除 | ・改正 |
代理
代理に関して、民法に対する特則が定められている。
- 顕名がなくても本人に効果が帰属する:商法504条
- 本人が死亡しても代理権は消滅しない:商法506条
顕名主義の例外
民法で定められているように、代理をするときには、代理人が本人のためにすることを示さなければならない。この行為を「顕名」という。
しかし商行為の代理においては顕名主義の例外で、顕名を示さなくても、代理人のした行為が本人に帰属する(商法504条)。
第504条「商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。」
商取引では、大量継続的に取引をするのが通常であるため、いちいち営業主の名を示すことは煩雑で、円滑な取引を阻害してしまう。また、取引の相手方においても、営業主のためにされたものであると知っていることが多い。
こういった事情があり、簡易迅速な取引とするため、商行為の代理については顕名が不要と解されている。
もっとも、顕名主義の例外を無制限に認めるのも危険である。代理人を本人と信じて取引をした相手方に不測の損害を及ぼすおそれがある。
→ そのため、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったとき、代理人に対して履行の請求をすることも可能である(504条ただし書き)。
代理権消滅の例外
民法第111条では、代理権の消滅事由が定められている。
- 本人の死亡
- 代理人の死亡
- 代理人が破産手続開始の決定もしくは後見開始の審判を受けたこと
以上の事由が生じたとき、代理権は消滅する。
しかし商取引においては、その営業活動を継続させて取引の安全を確保することが重要視され、特則として、商法第506条では「本人の死亡」によっても代理権は消滅しないと定められている。
契約の申込み
契約の申込みに関する規定はいくつかある。
- 対話者間での契約の申し込みは、直ちに承諾しなければ効力を失う:商法507条→民法525条3項
- 各地者間での契約の申込みは、相当の期限内に承諾しなければ効力を失う:商法508条
- 申込みの際受け取った物に対しては、保管の義務を負う:商法510条
対話者間における契約の申込み
民法改正の影響で商法第507条は削除されたが、元々商法にあった内容が民法525条3項に移行されただけでルールに変更はない(商人間に限らず適用されるようになったということ)。
「承諾に関して期間が定められていない申込み」が、対話者間でなされた場合、その場で承諾をしなければ効力をなくすという内容。
→ 取引は迅速にするべきという趣旨
隔地者間における契約の申込み
隔地者間においても、商取引は迅速であることが求められる。
そこで商法508条では、相当の期間内に承諾の通知が発せられなければ当然に効力は失われるとしている。
⇔ 民法では、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回できないとされており、この撤回までは申込みの効力が存続する
第508条「商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う。」
契約の申込みを受けた者の物品保管義務
商法第510条では、商人が申込みの際物品を受け取った場合、その申込みを承諾しなくても、その物品に関して原則保管義務を負うとしている。
(ただしその費用は申込者が負担)
第510条「商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない。ただし、その物品の価額がその費用を償うのに足りないとき、又は商人がその保管によって損害を受けるときは、この限りでない。」
多数当事者間の債務
多数当事者間の債務の連帯について、商法第511条1項および2項に規定がある
- 民法では分割債務となるものでも、債務者の誰かにとって商行為となるものであれば商法が適用され、連帯債務・連帯保証が原則となる。
⇔ 逆に、債務を負担した数人いずれの者にとっても商行為でなければ、その行為が債権者のために商行為となる場合でも、その債務は連帯債務とはならない - 民法では保証人がいる場合、別段の意思表示がなければ連帯保証にならないが、
商法では取引の安全を確保するため、保証人の責任を強化して連帯保証になるとしている
第511条「数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。」
2「保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する。」
報酬請求権
商人がその営業の範囲内の行為をした場合、特約がなくても報酬を請求することができる。
⇔ 民法上は、委任の報酬について定めた648条にあるように、特約がなければ報酬は請求できない
第512条「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」
利息請求権
利息の請求に関しても513条に特則が設けられており、特約なく利息が発生するとなっている。
⇔ 一方が商人であれば適用される512条の報酬請求権とは異なる
法定利率
民法改正前の商法514条には、「商行為によって生じた債務に関して、法定利率は年6分とする」という規定があった。しかし同条は削除され、民法改正によって新設された変動制が適用されるようになる。
< 法定利率の新ルール >
- 年3%からスタートし、3年ごとに変動
- 変動の仕方は法務大臣の告示する「基準割合」による
- 基準割合は、5年分の短期貸付金利の各月の平均利率の合計を60で割って計算(5年=60ヶ月)
直近変動期における利率 + (直近変動期の基準割合 - 当期の基準割合)
流質契約
民法では原則流質契約禁止が規定されている。
しかし商法515条では、金融円滑のため、商行為によって生じた債権を担保する目的で設定した質権に関して、流質契約をすることができる。
→ 質権設定者は、債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させることを約することができる
第515条「民法第349条の規定は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、適用しない。」
債務の履行場所
商法・民法いずれも原則は持参債務。
(債権者側で引渡し等を行う)
しかし商行為に関しては、債権者の営業所にて債務の履行を行うのが優先され、営業所がなければ債権者の住所で履行することとされている。
⇔ 民法では債権者の住所にて履行する旨規定されているだけ
第516条「商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しはその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。」
商人間の留置権
民法と異なり、商人間で発生する留置権は、債権と占有物との牽連性を要件としない。
→ つまり「債権者が占有する物に関して生じた債権以外の債権」を担保するためにも、その物に留置権が生じる
→ 商取引では迅速性が重視されるため、牽連性を不要とする商事留置権を認めた規定
第521条「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。」
商事留置権も物権でり、すべての人に対抗できる。
したがって、商事留置権の成立後、債務者が当該目的物の所有権を失っても、債権者は被担保債権の弁済を受けるまでは目的物を留置できる。
商事消滅時効
民法改正前の商法522条では、「商行為によって生じた債権は、別段の定めがある場合を除き、5年間行使しなければ時効によって消滅する。」とされていたが、この規定は削除された。
消滅時効期間に関してはこちらで詳しく解説

商行為に該当するかどうかの区別
商行為と認められる行為は民法に優先して商法が適用され、上記で説明したようなルールに従うことになる。
しかし商行為に該当するかどうかは、「当事者が商人かどうか」によっても変わる。
上でも少し触れたが、当事者の双方が商人である場合に商法が適用されるケースや、当事者の一方が商人であれば商法が適用されるケースなどもある。
これらをまとめたのが下表。
当事者の一方が商人 | 当事者の双方が商人 |
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会社の行為は商行為と推定され、これを争う者において、事業と無関係であることの主張立証責任を負う。
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