憲法33条~35条は刑事手続を想定した規定が置かれている。
- 33条:令状主義
- 34条:弁護人依頼権
- 35条:住居・書類・所持品の捜索押収を受けない権利
33条では、特に逮捕に関する令状主義の定めが置かれ、35条では下の条文のように住居への侵入や捜索押収等に関して令状を要する規定が置かれている。
ただ、ここで問題となるのが「刑事手続以外で同条が適用されるのか」ということ。以下ではこの問題に関して言及する。
憲法第35条
「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」
2「捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。」
憲法35条の行政手続への適用可否
33条や34条が刑事手続に関する規定であるように、それに続く35条も刑事手続上の捜索等に関する規定を置いたものと考えられる。
しかし、だからといって行政手続にはまったく適用されないわけではない。まずは同条の趣旨や目的を見ていく。
憲法35条の趣旨
憲法第35条の趣旨としては、「住居」が人の私生活の中心になっているという考えの下、財産的利益を保護することに限らず、私生活の自由やプライバシーの保護を含むとされている。
そのため「住居の不可侵」を定めた規定であるとも言われる。
ここでの「住居」には自宅だけでなくホテルや旅館の一室、事務所や店舗なども含むと考えられている。
行政手続に適用させることの妥当性
前項で挙げた目的・趣旨に照らせば、プライバシー保護のため、刑事手続を行う捜査機関に対してだけ同条を適用させる必要はない。
また、35条の主目的を「令状主義に従った制度の確立」と捉えたとしても、刑事手続に類似する行政手続に関しても適用させるのがその目的にかなっていると言える。
よって、刑事手続における住居への侵入や捜索等では35条が適用され、令状を求められるのに対し、行政手続であるというだけでその必要性がないとするのは妥当とは言えない。
適用可否の判断基準
以上のように、憲法35条は行政手続においても適用されることがあり、その行為によっては令状を要すると言える。そこで適用可否に関しては、以下の点を考慮する。
手続の目的
争われている手続に関して、刑事責任の追及が目的とされているのであれば35条の射程内となり、令状が求められる。これに対して当該手続の目的が刑事責任追及とは異なり、純粋に行政上の問題である場合には適用が否定される方向へ傾く。
刑事手続との関係
手続が直接に刑事手続に結びつくなら35条の射程内となる。
そこで「実質において、刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく作用を一般的に有する」かどうかが一つの判断基準となる。
強制の態様
強制の度合いが相当程度強いと言えるなら35条の射程内。
そこで「相手方の自由な意志を著しく拘束し、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度」かどうかが一つの判断基準となる。
手段と目的の比例性
以上の内容を総合考慮し、達成したい目的に対して手段がつり合っていないなら35条の射程内となる。
そこで「その目的や必要性に鑑みて、強制の程度が実効性確保の手段として不均衡・不合理」かどうかが一つの判断基準となる。
関連判例
憲法35条が行政手続に適用されるかどうかが争われた判例がいくつかあるため、紹介していく。いずれも有名判例である。
川崎民商事件(最大判昭47.11.22)
川崎民商事件(最大判昭47.11.22)では、
令状のない収税官吏による質問検査の合憲性が争われたが、「憲法35条は主に刑事責任追及の手続における強制に関して、司法権の事前の抑制の下におくべきことを保障した趣旨ではあるものの、刑事手続ではないとの理由のみで一切の強制が同条による保障の枠外となるのは相当ではない」と判断されている。
結果としてこの事件では、当該手続が令状によることを要件としていないものの、35条に反するものとは言えないと判断された。

成田新法事件(最大判平4.7.1)
成田新法事件(最大判平4.7.1)では、
使用禁止命令が出された工作物に対する無令状での立入検査の合憲性が争われたが、「行政手続上の強制手段である立入りに対し、常に裁判官の令状が必要と解するのは相当ではなく、その立入りが『公共の福祉の維持という行政目的を達するために欠かせないものかどうか』や『刑事責任追及のための資料収集に直接結びつくかどうか』『強制の程度』といったことなどを総合判断するべき」とされている。
結局この事件でもこれらを総合判断して憲法35条に反するものではないとされた。
GPS捜査に令状を要するとした判例(最大判平29.3.15)
GPS捜査を、令状がなければ行うことができない「強制処分」とした判例(最大判平29.3.15)がある。この事件では、「合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する」ため、これをもって「個人の意思を抑圧して」憲法の保障する法益を侵害していると判断された。