ここでは、行政事件訴訟法差止訴訟3条7項における「差止めの訴え」に関して、その概要や訴訟要件等を解説していく。
差止訴訟以外の訴訟類型についてはこちら

差止訴訟とは
差止訴訟は抗告訴訟の一種で、行政庁による処分等に対し、事前に起こす訴訟である。
取消訴訟の規定が準用されていることも多く、以下では当該訴訟の特徴と、何が準用されているのかに関しても解説する。
処分等をされる前にする訴訟
差止訴訟は、行政事件訴訟法3条7項に規定が置かれている。
(抗告訴訟)
3条7項「この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。」
処分をされてしまってからでは取り返しがつかないような場合に提起される訴訟で、事前に処分等を止めてもらうことを求める。
(そのため実質的には処分等をされる前に提起する取消訴訟と言える)
その審理においては、義務付け訴訟と類似の規定があり、
また、取消訴訟と同じく、当該「処分等の違法性」が本案審理の対象となる。
なお、判断の基準時は判決時と解される
(厳密には事実審の口頭弁論終結時)
出訴期間について
出訴期間に関しては取消訴訟の規定(14条)が準用されない。
取消訴訟では、処分等や処分等を知った時を起算点に設定しているが、差止訴訟ではその性質上、同様の起算点が設定できない。
(処分がない段階で認められる訴訟であるから)
第三者効はない
差止訴訟の認容判決によって、行政庁は一定の処分等をしてはならない旨命じられる。
そして差止訴訟の判決には、拘束力の規定(33条)が準用されるが、
第三者効の規定(32条1項)に関しては準用されていない。
(取消判決等の効力)
第32条「処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。」
そこで、判決内容は既判力によって当事者は拘束するが、第三者には効力が及ばない。
取消訴訟に第三者効があって差止訴訟にない理由
「廃棄物処理場の許可」を例にする。
すでに許可を受けた者がいて、住民がその許可の取消しを求める場合、許可取消の効果が処理場の許可を受けた者(訴訟における第三者)にも及ばなければ意味がない。
しかしその者自身は訴訟の当事者ではないため、第三者効を認める必要がある。
一方、差止訴訟を提起する段階ではまだ当該許可はされておらず、第三者に効果を認めなくても原告は目的を達成できる。
緊急の必要があるときは「仮の差止め」

差止訴訟の訴訟要件
差止訴訟の要件は以下。
- 処分性
- 蓋然性
- 原告適格
- 狭義の訴えの利益
- 重大な損害
- 補充性
- 被告適格
- 管轄裁判所
処分性
「処分又は裁決」が訴訟の対象になるのは取消訴訟と同じ。
また権力的事実行為が含まれるのも同じ。
ただし取消訴訟では「継続的な事実行為」でなければならないのに対し、
差止訴訟では「継続的性質を持たない事実行為」も対象となる。
蓋然性
処分の予定もないのに差止訴訟は提起できない。
「処分等がされようとしている」と言えなければならず、つまり蓋然性が求められる。
訴えの利益
訴えの利益がなければ訴訟は提起できないが、差止訴訟においては処分等がなされることで訴えの利益は失われる。
(その場合取消訴訟にて争う)
重大な損害
差止訴訟の提起には、処分等がされることによって「重大な損害」を生じるおそれがなければならない。
そして重大な損害が生じる場合とは、
取消訴訟や執行停止によって容易に救済が受けられない場合を指すとされる。
原告適格
差止訴訟の原告適格を有する者とは「行政庁が一定の処分等をしてはならない旨を命じることを求めるにつき法律上の利益を有する者」である(37条の4第3項)。
取消訴訟と同様に解することができ、第三者に関する解釈規定(9条2項)も準用されている(37条の4第4項)。
(差止めの訴えの要件)
3「差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。」
4「前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第9条第2項の規定を準用する。」
なお第三者に関する解釈規定(9条2項)では、処分等の相手ではない第三者に関して、以下の原告適格基準を設けている。
- 当該法令の趣旨および目的
- 当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質
- 当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨・目的
- 当該処分または裁決が、法令に違反してされた場合に害されることになる利益の内容および性質、害される態様および程度
補充性
差止訴訟は、重大な損害を避けることができる、他の適当な方法があるときは提起できない(37条の4第1項)。
「他の適当な方法」とは例えば、差止めを求める処分の前提となる処分につき取消訴訟を提起すれば解決できるような場合が該当する。
滞納処分においては、取消訴訟を提起すると、訴訟係属中は当該滞納処分による財産の換価はできないルールになっている。そのため、滞納処分を受けた時には換価処分の差止訴訟を提起することはできず、「他の適当な方法」である取消訴訟を提起しなければならない。
なお、差止訴訟ではただし書きで補充性要件が規定され、消極要件とされて被告が主張立証責任を負う。
これに対し、非申請型義務付け訴訟では積極要件になっているという違いがある。
(差止めの訴えの要件)
第37条の4「差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。」
(義務付けの訴えの要件等)
第37条の2「義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」
練習問題
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