ここでは普通地方公共団体の長が持つ拒否権についてまとめています(行政法・地方自治法)。
何に対して拒否権を持つのか、その条件や、拒否権を行使しなければならないケースなどいろいろあります。
長が拒否できるのは議会の議決など
第176条「普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日から10日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。」
地方自治法176条以降に普通地方公共団体の長が持つ拒否権についての定めがあります。
異議を唱えれば、長が議会で決めたことを拒否できます。
しかし長の意見が何でも通るわけではありません。その後再度の議決を取るなど、いくつかの条件も設けられています。
また拒否権は「一般的拒否権」と「特別的拒否権」に分けることができ、後者は、長が再議に付すことを義務とする内容の拒否権になっています。
個人的には拒否したいと思っていなくても、拒否権の行使を強制されてしまいます。
このように、普通地方公共団体の長には強い権限が認められています。拒否権とは異なりますが、「専決処分」というものも長には許されており、例えば本来議会の議決・決定を受けて制定しなければならない条例について長が専決処分としてこれを制定することもできます。
以下では再議制度について簡単にまとめていきます。
一般的拒否権(長が任意に拒否)
再議制度における一般的拒否権は、ある議会の議決について、長が任意的に再議に付すことができるとする拒否権のことを言います。
この中にも細かい規定が色々とありますが、再議における議決要件で分ければ「条例に関する議決への拒否」と「その他の議決への拒否」の2つになります。
条例に関する一般的拒否権
長は、条例の制定や改廃の議会の議決について、再議に付すことができます。
ただし議決の日から10日以内、かつ、理由を示すことが必要です。
そして再議において、再び同じ議決(長がさっき拒否した内容)になった場合、その議会の議決が確定します。
ただし、再議決には出席議員の3分の2以上の同意がなければ可決となりません。そのままの案を通すにはハードルが高くなっています。
ちなみに、予算に関する議会の議決も同じ条件になっています。
その他の議決に対する一般的拒否権
「条例や予算に関する議会の議決」以外では、再議決における3分の2以上という要件が付いていません。
一般的拒否権ですので長が再議に付すかどうかは任意で、再度同じ議決になった場合に議会の議決が確定する点も同じです。違うのは再議決のハードルの高さです。
特別的拒否権(長は拒否権行使が義務)
特別的拒否権は、長に与えられている拒否権の行使が義務付けられるというもので、ある状況に陥れば長は必ず議会の議決を拒否しなければなりません。大きく分けて以下の3つのパターンです。
議決内容が法令や規則に違反しているとき
議決の内容が法令や規則に違反、つまり違法な行為がなされている場合には長はこれを止めるよう、拒否権を発動しなければなりません。
このケースでは、21日以内に、
長が都道府県知事なら総務大臣へ、長が市町村長なら都道府県知事へ「審査の申立て」をします。
これに対する裁定を受け、
この裁定に不服がある場合にはここから60日以内に裁判所に出訴ができます。
義務費の削除や減額の議決に対する拒否
義務費の削除および減額の議決には拒否権を行使しなければなりません。
義務費:法令により負担する経費。人件費など、支出が法令で定められているもの。
簡単に言えば、経費削減に関する議決が対象ということです。
その後同じ議決となった場合、原案通りに執行されますが、義務費は予算に計上して支出ができるようになります。満額長が形状して支出することで、削減した経費の用途が不明になるという事態を防いでいます。
非常費の削除や減額の議決に対する拒否
非常費の削除や減額に関する議決へも、拒否権を行使しなければなりません。
非常費:災害による被害の復旧や、そのための施設に要する経費。
人命に関わるような費用ですので、これを減らす議決を止めるべく長の拒否権が発動です。
ちなみに、これを再議に付したにもかかわらず同じ議決になった場合には、その議決は長への「不信任決議」とみなすことができます。
まとめ
普通地方公共団体の長には議会の議決に対して拒否権を持つ。
- 法令違反や義務費、非常費の削減等には義務的に拒否しなければならない。
- 条例の制定や予算に関しての拒否権行使は任意的で、再議決には3分の2以上の同意を要する。