「期限の定めのない債権」について解説
消滅時効の起算点:債権成立時
履行遅滞の時期:請求時
下の4つも期限の定めのない債権として扱われる
1:債務不履行による損害賠償請求権
2:契約解除による原状回復請求権
3:不法行為に基づく損害賠償権
4:弁済時期の定めのない消費貸借
期限の定めのない債権(債務)とは
「期限の定めのない債権(債務)」とは、
何かしらの請求権や相手方の義務について、いつまでに弁済・履行しろと設定せずに成立した債権(債務)のこと
例)出世したら履行するといった約束
消滅時効の起算点:債権成立時
債権は原則として「権利が行使できる時」から10年間で時効消滅する
(客観的時効期間)
そこで問題になるのが「いつからその期間を数え始めるのか」ということである。この数え始め時点を起算点という。
そして期限の定めのない債権の消滅時効の起算点は、債権の成立時になるとされている。
なぜならこの債権は契約を締結し、債権が生じた時から即座に請求をすることができ「権利が行使できる時」に該当するからである。
起算点が7月5日だったとしても、その初日である7月5日は含めず、その翌日となる7月6日を1日目とする
(ただし午前零時から始まるときは初日を含める)
履行遅滞の時期:請求時
履行遅滞の時期は、民法412条3項にその規定が置かれており、履行の請求を受けた時から債務者は履行遅滞に陥る。
(履行期と履行遅滞)
第412条3「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」
なお、期限の定めのない債務の不履行に対する遅延損害金の起算日は、上記の初日不算入の原則により「債務の履行を請求した日の翌日」となる。
例)安全配慮義務違反に対する損害賠償請求
事業主は従業員に対して安全配慮義務を負う。そしてこの安全配慮義務の不履行により治療費や慰謝料などの損害賠償を請求した場合、その損害賠償請求権は「期限の定めのない債権」となる。
つまり、損害賠償を請求した時が履行遅滞の起算点となり、請求した翌日から遅延損害金が生じることになる。
相殺について
期限の定めのない債権(債務)は、履行の請求があるまで遅滞には陥らないが、弁済期自体はその発生と同時に既に到来する(だからこそ消滅時効の起算点にもなっている)。
そこで債権者は、当該債権の弁済期の到来について「待つ」必要がない。
つまり、履行の請求をすることなく債権者は当該債権を自働債権として相殺をすることができる。
(債務者側も、履行の請求を受けていなくてもこれを受働債権として相殺ができる)
期限の定めのない債権の具体例
期限の定めのない債権の具体例としては以下のようなものが挙げられる。
- 期限を定めずにお金の貸した場合の返還請求権
お金を返してもらう権利は「期限の定めのない債権」となる
(ただし消滅時効の起算点と履行遅滞の時期には、後述する特則あり) - 寄託期間を定めずに特定物を預けたときの返還請求権
寄託期間の定めがない場合、期限の定めのない債権となる
そこで、寄託の時から消滅時効が起算される - 債務の不履行や違法な行為によって生じた損害賠償請求権
債務不履行や不法行為による損害賠償請求権も期限の定めのない債権となる
(後述) - 契約を解除したことによる原状回復請求権
以下では、期限の定めのない債権に含まれるものの、具体的な消滅時効の起算点や履行遅滞の時期に注意が必要な「債務不履行による損害賠償請求権」「契約解除による原状回復請求権」「不法行為に基づく損害賠償権」「弁済時期の定めのない消費貸借契約」についてみていく。
債務不履行による損害賠償請求権
請け負った仕事を正しく行わなかったことで損失が生じた場合、損害賠償請求権が生じる。
このとき、債務不履行による損害賠償請求権は期限の定めのない債権として、以下のように起算点を考える。
履行遅滞の時期 :履行の請求時
契約解除による原状回復請求権
履行遅滞の時期 :履行の請求時
しかしこの請求権は契約を解除した時点で発生するため、契約解除時を債権の成立時として、消滅時効の起算点になる。
不法行為に基づく損害賠償権
履行遅滞の時期 :不法行為時
不法行為による損害賠償を請求するには、生じた損害の存在と、加害者を知る必要がある。
そのためこの両方を知った時が消滅時効の起算点になる。
履行遅滞の時期は、損害賠償の請求時ではなく、不法行為時とされており、不法行為を働いた時から履行遅滞に陥ることになる。
(被害者を救済するための措置)
弁済時期の定めのない消費貸借契約
友人同士などの親しい仲でお金の貸し借り(金銭消費貸借契約)が行われる場合、返済の期限を決めないことも多い。
履行遅滞の時期 :請求してから相当期間経過後
消費貸借の場合、その借りたものを消費する期間が通常必要になる。
そこで「相当の期間」は、履行遅滞になることはない。
また、消滅時効に関しても、債権成立から相当期間を経過してからでなければ起算されないとの特則が設けられている。
相当期間の長さとは
契約直後の返還請求は法律上認められない。
相当期間の経過後に返還請求が可能となるが、
この「相当期間」は通常1週間程度と考えられている。
条文上には日数まで明記はされていないものの、取引上、一般に必要とされる期間であると解釈される。そのため1週間というのもあくまで一つの目安であり、そ個別に特殊な事情がある場合にはまた異なる期間が必要になってくる。
なお、仮差押に関しては相当期間が経過する前でも可能である。
そのため、友人にお金を貸したものの経済状況がどんどん悪化しており、返済してくれるか怪しくなってきた、と言う場合には仮差押の手続きを検討すると良い。
なお、確定期限の定めのある債権や不確定期限の定めのある債権など、その他債権に関する消滅時効の起算点や履行遅滞の時期について広くまとめたページはこちら